本研究は、これまで未知とされていた近代日本の「機密費」史料を捜索・収集し、その情報を抽出することで、機密費運用の歴史的経緯と特徴を解明し、近代日本の政治特質の一端を明らかにすることを目指した。その結果、下記の具体的成果を得ることができた。第一に、外務省外交史料館の所蔵する機密費史料の収集・翻刻を行い、戦前期の在中国公館における外交機密費の使途および運用実態を解明・分析し、公刊論文として発表した。第二に、防衛省防衛研究所の所蔵する陸海軍機密費史料を捜索・収集した。第三に、『密大日記』を始めとする旧陸軍省所蔵の基礎史料から機密費関係史料の記載項目を抽出して、データベースを作成した。第四に、歴代首相・首相秘書官経験者を始めとする私文書群のうち、明治末~大正初期の桂太郎・西園寺公望内閣が使用した機密費史料を翻刻し、独自の注釈を加えた。第五に、新規未公開史料群に含まれていた陸軍機密費関係の史料情報を入手した。第六に、明治~戦後期の新聞史料から機密費関連記事を収集し、目録とデータベースを作成した。第七に、収集史料の分析と周辺情報を整理して、近代日本における機密費運用の概要をまとめ、時期と使用主体による特徴を考察した。これらの調査で明らかとなった一次史料群は、いずれも従来着目されることの無かった貴重な史料である。本研究課題で行った史料収集・分析は、従来不明であった機密費運用の実態解明をもたらす重要なものであり、機密費運用の歴史的考察と将来的な運用のあり方の考察に大きく貢献する意義がある。なお本研究課題の成果の一部は、研究会での報告や公刊論文等で公表した。今後の研究計画としては、収集史料の整理・分析とさらなる新規史料収集を進め、成果の逐次公表をめざすとともに、機密費運用の慣行の形成・変容の過程、時代背景との関連、各官庁毎の特徴などを明らかにすることで、分析視角の一層の深化が期待できる。
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