研究課題/領域番号 |
23730180
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
吉次 公介 沖縄国際大学, 法学部, 准教授 (40331178)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 日本外交史 / ビルマ / 冷戦 / 賠償 / ODA |
研究概要 |
平成23年度における本研究事業の実績としては、主に1945年から1974年までを対象として、戦後日本とビルマの関係についての事実関係の確認を行ったことが挙げられる。具体的には、以下の調査を実施した。 (1)外務省が毎年刊行している『わが外交の近況(外交青書)』各年版から、日本=ビルマ関係に関する事実関係を確認した。(2)外務省が毎年刊行している『政府開発援助白書(ODA白書)』から、日本の対ビルマ経済援助の過去の実績を把握した。(3)『朝日新聞』の調査を実施し、日本=ビルマ関係に関する記事を全て複写した。(4)日本=ビルマ関係に関する先行研究の把握。 これらの作業を通して、戦後日本=ビルマ関係における事実関係の確認はかなりの程度進んだといえる。しかしながら、資料的制約から、依然として不明な点も多く残されており、引き続き、事実関係の確定を行う必要がある。なお、可能な範囲で、1974年以降の日本=ビルマ関係に関する事実確認も行っている。 事実関係の確定作業を行いつつ、いわゆる「一次史料」の収集も行った。そのうち重要なものとしては、外務省外交史料館(東京都)における資料調査である。岸信介首相や佐藤栄作首相等日本政府要人のビルマ訪問に関する記録や、賠償、貿易協定、東南アジア開発閣僚会議などに関する史料の収集を行った。また、外務省に対して、日本政府要人のビルマ訪問に関する外交文書等の情報公開請求を行い、貴重な史料を入手することができた。アメリカ政府の外交文書の調査にも着手している。今年度は、基本資料であるForeign Relations of the United Statesの各年版、とくに対日関係および対ビルマ関係部分の収集を開始した。 なお、研究成果として『日米同盟はいかに作られたか』(講談社、2011年、単著)を刊行し、そのなかで1960年代の日本・ビルマ関係について論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、戦後日本とビルマの関係を歴史的にひもとき、その「限界」と継承すべき「遺産」を明らかにすることで、今後における日本の対東南アジア外交の指針を示すことである。 今年度においては、当初の予定通り、まず事実関係の解明を重点的に行った。なぜなら、戦後日本とビルマに関する歴史学的研究は管見の限り皆無であり、事実関係すら十分に把握できない状況だからである。外務省が毎年刊行している『わが外交の近況』や『政府開発援助白書』よって、戦後日本とビルマの関係をある程度跡づけることができた。だが、『わが外交の近況』などで、戦後日本とビルマの関係を十分に把握することはできない。なぜなら、『わが外交の近況』がビルマに割いている紙幅は極めて限られており、その記述は極めて簡潔なものだからである。『わが外交の近況』などを補完するものとして『朝日新聞』の調査を実施した。1947年以降の新聞を丹念に調査する作業にはかなりの時間を費やしたが、『わが外交の近況』には記載されていない情報がかなり含まれており、事実関係の確認に相当程度寄与した。事実関係の確認は、おおむね順調に進んでいるといえよう。 一次史料の収集も、おおむね順調に推移している。外務省外交史料館には、1954年に締結された日本・ビルマ平和条約や、日本・ビルマ賠償協定に関する史料がまとまった形で所蔵されていた。また、最近、賠償の実施や、日本とビルマの貿易協定に関する史料も公開された。さらに、東南アジア開発閣僚会議や、対ビルマ援助国会議に関する史料も入手することができた。さらに、アメリカ側の外交文書の収集にも着手した。まだ分析には至っていないものの、アメリカ国務省が刊行しているForeign Relations of the Untied Statesのうち、日本とビルマに関する巻を入手している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の進捗状況を踏まえた、次年度以降の推進方策は以下の通り。第一に、先行研究、二次文献、さらには一次史料の収集を踏まえて、事実関係の特定を進める。 第二に、一次史料の収集を継続的に実施する。とくに、外務省外交史料館における外交文書の調査が軸となる。アジア太平洋地域公館長会議資料、日本・ビルマ航空協定関係資料などが当面の調査対象である。日本・ビルマ関係だけでなく、日米関係にかかわる史料も調査対象とする。なぜなら、本研究事業の一つの課題は、日米間で対ビルマ政策についてどのような協議を行っていたのかを明らかにすることだからである。歴代首相・外務大臣の訪米に関する記録や、日米貿易経済合同委員会の記録などが具体的な調査対象として考えられる。 一次史料の収集にあたっては、日本側だけでなく、アメリカの外交文書も調査対象とする。当面は、Foreign Relations of the United Statesの分析を進める。その後は、国内諸図書館に所蔵されているマイクロフィルム史料、さらにはアメリカ国立公文書館や歴代大統領図書館で調査することも考えられる。 第二に、戦後日本とビルマの関係にかかわった政治家や外交官の日記や回顧録の調査および日本・ビルマ関係に詳しい外務省OBへのインタビューを行う。これらにより、外交文書に記されていない事実関係が明らかになるであろう。 資料収集を進めると同時に、諸資料の読解・分析を進め、論文の構成を検討する。論文の骨格が固まった時点で、さらに補足的な資料調査を実施し、論文を完成させる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、約5万円を次年度に繰り越した。これは、史料の複写費が予想以上に低く抑えられたからである。かつて外務省外交史料館では、デジタルカメラによる史料の撮影が認められておらず、同館における資料収集には高額の複写費が必要であった。しかし、外務省外交史料館の規則が改正され、一次史料のデジタルカメラによる撮影が可能となった。これにより、同館における複写費の支出を抑えることができた。 次年度においては、おおよそ次のように研究費を使用する計画である。第一に、物品としては、日本政治外交史、ビルマおよび東南アジア関連、アメリカ政治外交史、国際政治学に関する研究書、さらには政治家や外交官の回顧録などの図書を購入する。また、パソコンのプリンタ用インク、用紙、文房具などの消耗品にも一定程度支出する。 旅費としては、東京への調査出張経費を支出する予定である。外務省外交史料館や国立国会図書館などでの資料調査、対ビルマ外交にかかわった外務省OBへのインタビューを実施する。人件費・謝金としては、アルバイトの雇用にかかる経費を支出する。アルバイトを雇用することで、図書館などにおける複写作業や、データの入力作業を効率的に進め、研究事業の円滑な遂行に努める。その他の費目としては、外務省外交史料館や国立国会図書館、沖縄国際大学図書館などにおける複写経費、外務省への情報公開に必要な経費(請求時の経費、複写費などは収入印紙にて納入)、通信費などを支出する。
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