研究課題/領域番号 |
23730322
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
橋本 規之 信州大学, 経済・社会政策科学研究科, 准教授 (70401198)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 産業組織 / 化学産業 / 選択と集中 / M&A / 事業提携 / 事業統合 / 設備調整 |
研究概要 |
本研究は,最近20年間の日本の化学産業のダイナミズムに注目し,産業組織の再構築(マクロ)と企業の事業構造の転換(ミクロ)との間の相互作用の解明を主な目的としている。この目的を達成するために,平成23年度は次の二つの課題の研究を進めた。 第一の課題は,1990年代後半以降の汎用樹脂業界における事業統合会社の成立が産業組織に与えた影響の分析である。本課題では,関連資料の収集とヒアリング調査を行うことにより実証分析の精緻化を図るとともに,文献研究によって理論的な枠組みの明確化に努めた。主な分析結果として,(1)販売機能のみの共販会社から,製造・販売・開発の機能を備えた事業統合会社への発展段階に関して一定の構図を描き,経営権と所有権の意義を明らかにした。(2)複数の企業による水平的な事業統合という事業統合のいま一つの側面について,設備処理の与える産業全体での合理化効果を推計し,商慣行の改善に示される価格交渉力の向上の論理を明らかにした。 第二の課題は,企業のコア技術,組織能力をベースとした組織間調整の分析である。本課題では,コンビナートの中核企業のコア技術,組織能力の蓄積を活用した動きに注目して,事例の収集と統計データの作成を行い,次年度の本格的分析に進むための準備を整えた。 以上二つの課題の研究成果は,未解明であった1990年代以降の日本の化学産業の再編の論理の一端を明らかにしている。この実証分析を基礎に産業組織の再構築(マクロ)と企業の事業構造の転換(ミクロ)との関係の研究をさらに進めることで,産業組織と企業組織を主題とする理論と実証の研究系に対して一定の貢献ができると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の課題である1990年代後半以降の汎用樹脂業界の事業統合会社の成立による産業組織への影響の分析に関しては,(1)文献研究による分析の枠組みの明確化,(2)収集資料を通じた事例とデータの蓄積,(3)ヒアリング調査による個別企業の情報収集を行い,ほぼ見通しが立った段階にある(調査は継続中である)。 第二の課題である企業のコア技術,組織能力をベースとした組織間調整の分析に関しては,事例の収集と統計データの作成を行い,次年度の本格的分析に進むための準備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究として,次の二つの課題を進める計画である。 第一の課題は,環境問題に対する塩化ビニル業界の組織的対応と企業の経営戦略の分析である。本課題では,環境問題への組織的な対応が塩化ビニル産業の再編に与えた影響について,ヒアリング調査と文献・統計資料に基づいて考察する。 第二の課題は,化学産業の産業組織の再構築(マクロ)と個々の企業戦略(ミクロ)の相互作用の分析である。これまでの研究を踏まえた総括的な課題として,個々の企業戦略の相互作用の結果として産業全体でどのような構造変化が生じたのか,そして産業組織の変化が個別企業の戦略にどのような影響を与えたのかについて,化学産業を素材に理論的・実証的検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額では,当初予定していたヒアリング調査において研究状況の進捗状況によりその一部を次年度に実施することとなったため,次年度使用額が生じている。したがって,次年度研究費は,本年度からの継続調査と次年度の課題研究を進めることを目的に,化学企業,業界団体(塩ビ工業・環境協会など),リサイクル事業者へのヒアリング調査及び関連資料の収集を行うことに主に使用する予定である。
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