研究課題/領域番号 |
23770123
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白石 充典 九州大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00380527)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Gタンパク質共役型受容体 / ヒスタミン受容体 / 構造解析 / タンパク質工学 |
研究概要 |
ヒスタミンH1受容体(H1R)はアレルギー症状の主たる要因となっているGタンパク質共役型受容体で、創薬の大きなターゲットとなっている。H1Rの阻害剤である抗ヒスタミン薬は、花粉症等のアレルギーの治療薬や風邪薬として広く用いられているが、脳血液関門の通過や他の受容体との交差反応などを主たる要因とする副作用が起こる。H1Rの立体構造を明らかにすることで、構造を基盤とした副作用をより抑えた新世代の抗ヒスタミン薬の設計が可能となることが期待できる。 申請者らは発現・精製の困難であったH1Rに関して、高発現で安定な改変体の作製に成功した。この改変体をピキア酵母を用いて大量発現を行い、結晶構造解析に十分な量のタンパク質を調製することができた(Shiroishi et al., Methods, 2011)。申請者らはこの精製H1Rを用いてキュービック相結晶化法による結晶化に成功した。そして精製方法の最適化および結晶化方法の最適化を行うことで、阻害剤であるドキセピンとH1R複合体の3.1オングストローム分解能での構造決定に成功した(Shimamura and Shiroishi et al., Nature, 2011)。 ドキセピンは受容体特異性が低く、他のアミン受容体にも相互作用することが知られている。立体構造から、ドキセピンが受容体のリガンド結合ポケットに深く入り込み、他のアミン受容体で保存性の高いアミノ酸残基と相互作用していることが、受容体特異性が低い原因であることが分かった。また細胞外領域に強く結合するリン酸イオンが存在し、この部位が受容体特異性の創出に重要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時点で4オングストローム(最大分解能3.5オングストローム)程度のデータが得られていたが、構造解析は困難であった。当初は分解能を向上させるのは非常に難しく、1年以上の期間をかけた精製条件や結晶化条件の丹念な検討が必要であろうと考え、それでも分解能が向上しなかった場合、改変体構築の最適化(具体的にはT4リゾチームの融合位置の最適化)が必要であろうと考えていた。しかし実際には、研究課題開始1年目にして、精製条件の最適化や結晶化条件の最適化を行うことで、最終的に3.1オングストローム分解能の構造解析に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
H1Rの3.1オングストローム分解能での構造解析に成功したが、創薬に有用な立体構造としてはまだ課題が残る。特に分解能がまだ十分に高くないために受容体に配位する水和水、特に受容体とリガンドの相互作用に寄与する界面の水分子が全く観察できていないことである。受容体とリガンドの界面をつなぐ水分子が相互作用に重要な役割を果たす例が示されてきており、構造をベースにしたインシリコでの化合物設計には強く寄与する水分子を考慮しなくてはならない。今後も精製条件や結晶化条件の最適化を行うことで、水和水の観察が可能な分解能(2.5オングストローム以上)での構造決定を行うことを目標とする。そのためにはT4リゾチームの融合位置等、受容体の改変体コンストラクトの最適化も行う必要がある。申請者らが開発してきたサッカロマイセスを用いた改変体の構築・評価プラットフォームを用いて、T4リゾチーム融合改変体の中から発現量および安定性の高い改変体を選び、ピキア酵母にて大量調製を行う。また昆虫細胞は脂質の組成が酵母とは異なるため、精製の最終段階で残ってくる脂質が異なる可能性が高い。この微量に含まれる脂質が分解能に影響を与える可能性もあるため、昆虫細胞での発現、精製、結晶化も行うことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に使用する研究費として42876円あるが、これはタンパク質の大量調製に必要な試薬類の購入に充てる。現在のところ、大型備品を購入する予定はない。合成オリゴDNA、サッカロマイセスおよびピキア酵母の培養関連試薬、一般試薬、界面活性剤、脂質、プラスチック器具、学会参加や放射光施設での回折データ収集、打ち合わせのための旅費に使用する予定である。
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