研究課題/領域番号 |
23790129
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中瀬 生彦 京都大学, 化学研究所, 助教 (40432322)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 膜透過性ペプチド / ミトコンドリア / 薬物送達 / アルギニン / アポトーシス |
研究概要 |
細胞内への薬物送達キャリアーとして、HIV-1 Tatペプチドやオクタアルギニン(R8)などの、塩基性アミノ酸に富む膜透過ペプチドが近年広く用いられている。本研究では、細胞内の特定オルガネラ、特にエネルギー産生や細胞の生死に関わるミトコンドリアに着目し、ミトコンドリア標的能を有する膜透過性ペプチドの創製を試みた。 本研究では、脂質膜においてα-ヘリックス構造をとる両親媒性ペプチド、KLAペプチド(D(KLAKLAK)2)を基に、ミトコンドリア標的ペプチドをデザインし、それぞれの細胞内移行量や細胞内局在を検討した。また、各ペプチドを修飾したBcl-xLタンパク質由来BH4ドメインを合成し、細胞内送達とアポトーシス抑制活性の評価を行った。 蛍光標識したKLAペプチドは、HeLa細胞においてミトコンドリアに集積するが、細胞内移行率は著しく低いことが共焦点顕微鏡で観察された。そこで、細胞膜への集積性及び膜透過性を高めるために、KLAペプチドの全てのリジンをアルギニンに変えたRLAペプチドを作製した。このヘリックス構造が保持されたRLAペプチドは、KLAペプチドと比較して約40倍もの高い細胞内移行効率を示し、かつ高いミトコンドリア集積性を示すことを確認した。また、RLAペプチドは少なくとも24時間はミトコンドリアに特異的に局在することが確認された。BH4のミトコンドリア送達実験においては、RLA-BH4はR8-BH4と比較して高いミトコンドリア集積性及び抗アポトーシス活性を示した。以上により、高効率に細胞膜を通過し、ミトコンドリア特異的に集積可能な新しい膜透過性ペプチドRLAが創製された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究の達成度として、おおむね順調に進展していると判断できる。両親媒性ペプチドのKLAペプチドを基に、細胞内移行効率を高める為のアルギニン残基の置換を行った結果、RLAペプチドがKLAペプチドの約40倍も移行性が高く、且つミトコンドリアへの高い集積性や低い細胞毒性が確認された。さらに、本ペプチドの二次構造を検討した結果、ヘリックス含有量が膜透過効率に大きく影響することも明らかにされ、今後の膜透過性ペプチドの設計の為の重要な知見がこれまでに得られている。RLAペプチドのキャリア能に関しても、アポトーシスを抑制するBH4ペプチドの送達について検討した。蛍光標識したペプチドについて細胞内可視化を行った実験では、RLAペプチドによってBH4を効率的にミトコンドリアに送達できることが観察された。さらにその送達によって、エトポシドによるアポトーシス誘導を有意に抑制することが分かり、本ペプチドがミトコンドリアへの細胞内導入キャリア分子として応用可能であることが示されるまでに至った。
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今後の研究の推進方策 |
更なるRLAペプチドの細胞内導入キャリア能を調べるために、様々な分子の細胞内送達について詳細に検討する。特に、生理活性を有するタンパク質やミトコンドリアで機能する核酸といった巨大分子の、RLA ペプチドを用いた細胞内送達を詳細に検討し、キャリアによる細胞内導入効率の上昇及び細胞内のどこに局在するか確認するために、蛍光標識したカーゴ分子を細胞内へ導入し、共焦点顕微鏡やフローサイトメトリーを用いて比較検討する。また、カーゴ分子の生理活性を評価することで、キャリアペプチドによるミトコンドリア送達と活性の関連性を検討する。 また、RLAペプチドの細胞内移行機序は未だ明らかになっていないため、それらを解明する為に、(1)エンドサイトーシスやマクロピノサイトーシスの各種阻害剤を用いた場合におけるペプチドの細胞内移行への影響、(2)細胞内トラフィックを阻害剤(例えば、early endosomeからlate endosomeへの移行阻害剤や、エンドソーム内pH低下阻害剤等)によるペプチドのサイトゾル移行への影響、(3)糖鎖欠失細胞株(CHO-pgs A745やpgs D677等)や、シンデカン及びグリピカンが過剰発現した細胞株(293T変異株等)及び糖鎖消化酵素等を用いたペプチドの細胞内移行における影響について共焦点顕微鏡やフローサイトメトリーで検討する。これらの実験で得られた知見を総合的に評価することで、ペプチドの詳細な細胞内移行機序を紐解く。
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次年度の研究費の使用計画 |
経費は主に、"今後の研究の推進方策"の研究を達成する為のペプチド合成用の有機化学系試薬(アミノ酸、ペプチド合成用レジン、カップリング試薬等)や、細胞培養試薬、細胞培養プラスチック製品、細胞実験用プラスチック製品(共焦点顕微鏡観察用、フローサイトメトリー実験用、細胞毒性試験用)に必要な消耗品購入、および国内・海外で開催される学会等においての研究成果発表の旅費等に充てる。
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