研究課題
ローズベンガルと緑色光による光化学反応で緑色光照射部位選択的に血管内皮を傷害し血栓性閉塞を組織型プラスミノゲン活性化因子(t-PA)遺伝子欠損マウスの左大脳皮質に作製した。障害7日後までの運動機能、運動学習、短期記憶および神経症状の観察を行った。障害7日後での脳梗塞巣の大きさおよび神経症状には、野生型と欠損型で差がなかった。オープンフィールド試験である半径10cm円からの脱出する時間において、野生型では脳障害を与えていないマウスに対して有意に脱出時間の延長を認めたが、欠損型では脳障害の有無に関わらず、脳障害を与えていない野生型と同程度であった。そこで、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬アトモキセチンを投与したところ、野生型ではあまり薬の影響は受けなかったが、欠損型マウスでは、薬の効果が野生型と同程度まで現れた。アトモキセチンは多動性障害・注意欠陥の治療薬であり、シナプス間隙のノルアドレナリン濃度を上昇させることで欠損型の多動性障害を抑制したと考えられた。さらに肝臓障害修復時に障害周囲での貪食細胞の集積にウロキナーゼ型PA(u-PA)が重要である点を示し、脳虚血境界領域においても貪食細胞でのt-PAの産生が上昇する点が似ていることを示した。脳虚血によってノルアドレナリンを介して内因性t-PAが脳障害後のマウスの潜在的な逃避行動すなわち歩行へのモチベーションに対して関わっており、脱抑制あるいは衝動性に内因性t-PAが関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
t-PA遺伝子欠損マウスを用いた行動薬理学的な評価により、脳虚血後の情動障害に内因性t-PAが関与していることを見出した。また、選択的ノルアドレナリン(NE)再取り込み阻害薬の効果の違いから、神経シナプス間隙のノルアドレナリンが関与している可能性を見出した。前年の内皮でのMMP-9産生亢進の結果、肝臓での傷害後のリモデリングで線溶系因子が重要である結果とともに虚血境界領域の神経細胞におけるt-PA/Pli/LRP/MMPs/NEの調節機構という新しい足掛かりができ、その解明を着実に進めている。
t-PA遺伝子欠損マウスおよび培養細胞を用いて、脳虚血後のノルアドレナリンを中心としたモノアミンの変化について検討を行う。さらに、tPA/Pli/LRP/MMPs阻害によってモノアミンの変化、脳虚血後の情動障害が回復するかどうか、および認知機能の変化について検討を行う。また、機能タンパクが虚血下における血液脳関門を通過するかどうかを電子顕微鏡など使用して検討を行う。
物品費: 73.5万、旅費: 6.5万円。物品費は主に消耗品に使用する。動物実験(行動薬理学評価)を引き続き行い、購入費および飼育維持費として使用する。培養細胞の実験においては、培地など消耗品に使用する。抗体は染色、ウエスタンブロッティングおよび動物投与に用いて使用し、その他、試薬は組織学・生化学的検討に要する。旅費は、成果発表に使用し、国内学会で発表する予定である。
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Thromb Haemost.
巻: 107 ページ: 749-59
10.1160/TH11-08-0567