胸腹部大動脈瘤手術後に生じる脊髄虚血(対麻痺)は、様々なモニタや術中管理の改良により減少傾向にあるものの、その発生を完全に防止できていない。特に近年、術後遅発性に対麻痺が生じる割合が増加し、その原因として術中生じた虚血による再灌流障害が注目されている。その再灌流障害の機序に炎症反応の関与が示唆され、炎症性サイトカイン制御が脊髄虚血保護に働く可能性がある。最近この炎症性サイトカインを標的とした生物学的製剤が相次いで臨床使用されている。本研究は現在臨床使用されている抗サイトカイン製剤が脊髄虚血に保護的に働き、かつ安全に使用できるか家兎を用いて検討した。 平成25年度は前年度までに安全性を確認した抗TNF-α抗体(インフリキシマブ)を用いて脊髄虚血保護に有効か追加検討した。家兎脊髄虚血モデルを用いて、家兎(2.5kg)にインフリキシマブ5、10mg/kg(臨床投与量3~5mg/kg)と生理食塩水(対照群)を各5羽ずつ(10mg/kg群のみ4羽)1時間かけて投与し、腎動脈下の大動脈を15分間遮断して脊髄虚血を作成した。7日間飼育し後肢運動機能を毎日観察し、その後灌流固定を行い脊髄標本を作成した。5段階に分けた後肢運動機能評価(0麻痺、4正常)を用いた。7日目で対照群で0:2羽、1:1羽、2:2羽に対し、5mg/kg群で0:1羽、2:2羽、4:2羽、10mg/kg群で0:3羽、4:1羽であり、差を認めなかった。しかし病理組織学的評価ではL5レベルの平均脊髄前角細胞数は対照群で6.6±7.8個に対し、5mg/kg群で45.4±28個、10mg/kg群で24.3±27.3個と対照群と5mg/kg群の間で差を認めた。実験中に死亡した家兎はいなかったが、創が離開した家兎が多い印象があり、臨床応用を考えた場合、効果並びに安全性も含め更なる検討が必要と考えられた。
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