本研究では、2011年3月11日に発生した製油所の火災に伴う近隣の干潟底質へ影響を調べることを目的として、1年間に渡って干潟底質中の多環芳香族炭化水素(PAHs)濃度の経時変化を調べた。さらに、報告者らはこれまでに、この千潟に生息する環形動物であるイワムシ(Marphysa sanguinea)の糞中にはPAHsが高濃度に濃縮し、排泄後およそ2時間で糞中PAHs濃度が半減することを明らかにしてきていた。そこで、イワムシ糞中へのPAHs濃縮に対する火災の影響を調査すると共に、糞中PAHs濃度変化について更なる調査をおこなった。 (1)火災後の干潟環境のモニタリング 火災発生以前と比べると、今回調査した8種のPAHsでは最大で4.5倍程度高濃度になったことが確認された。一時的にPAHs濃度が増加したものの、火災発生から1年が経過したときにはほとんど火災発生以前と同レベルのPAHs濃度にまで低下したことが明らかになった。一方、生物があまり生息していない比較対照地ではPAHs濃度はほとんど変化せず、干潟とは異なる挙動を示した。干潟では、貝類や環形動物のような底生生物の存在によって底質が撹拌され、結果としてPAHs濃度低下がもたらされたと推測される。 (2)イワムシによるPAHs濃縮・分解及び浄化能力の評価 火災発生後のイワムシ糞中へのPAHs濃縮の度合いは火災発生前とさほど変わらなかった。火災発生の有無よりはサンプリング日による誤差が大きいことが分かった。また、排泄後1時間及び0.5時間経過後のイワムシ糞中のPAHs濃度変化も調べた。その結果として、イワムシ糞中PAHs濃度低下は擬一次反応で近似され、半減期は1.7~2.2時間であることが明らかになった。これより、イワムシ糞中に存在する微生物が関与することによるPAHs分解の可能性が示唆された。
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