研究課題/領域番号 |
23H00507
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
今村 知明 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (80359603)
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研究分担者 |
加藤 源太 京都大学, 医学研究科, 准教授 (20571277)
杉山 雄大 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 室長 (20725668)
明神 大也 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (40823597)
西岡 祐一 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50812351)
野田 龍也 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70456549)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | レセプト情報特定健診等情報データベース(NDB) / ビッグデータ / リアルワールドデータ / データベース / 死亡率、罹患率 |
研究実績の概要 |
レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)は日本の保険診療の悉皆情報であるが、多くの限界を抱え、研究には使えないと言われてきた。我々は、同一個人を紐づける名寄せ手法や、含まれる情報から死亡を特定する手法を開発し、NDBをコホート調査データとしてのデータベースに作り替えることに成功しつつある。NDBの残された問題点として、A. 有用なアウトカムの設定、B. 因果推論を実施する際の交絡因子の考慮の2点がそれぞれ困難であり、本研究ではこれらの解決に取り組んでいる。 具体的には、これまで構築したNDBが巨大かつ悉皆であることを活かし、制御したい因子がすべて一致する個人同士の比較を行うことで比較可能性を高める手法の開発を進めている。この方法においては、一致を前提としているためどれだけ層化しようとも最後の1例同士まで両群の共変量の差はゼロであることから、サブ解析・層別解析いずれにおいても交絡因子の制御を問題なく行うことができるはずで、この検証を行っており、すでに方法論の論文はアクセプトされてパブリッシュされている。巨大なデータベースの有機的な連結を前提として初めて可能になるデザインであり、両群の共変量の差が分布しない、偶然誤差が生じないという点でこれまでにない画期的な手法が確立され、ランダム化比較試験(RCT)のサブ解析・層別解析に頼る現状を克服し、臨床疫学研究のエビデンスの質と量を飛躍的に向上させることが出来つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、各疾患の臨床・基礎研究の専門家、疫学・公衆衛生学の専門家及びビッグデータ解析の専門家が揃い、すでに有機的な連携を行なっている。専門家が揃うことで、RCTのサブ解析・層別解析を補完する新たな観察研究の枠組みを構築できることから、世界的にも例がない高度なチームを作り上げた。独自の連結ビッグデータを用い、さらに測定し得るすべての背景因子の一致という新しい統計手法の導入により、諸外国のデータではできない最大級かつ緻密な解析に取組んでいるところである。具体的には、調整したい複数の変数を完全一致させる新たな手法を開発している。これにより、測定変数については従来の傾向スコア等疑似的なランダム化を実施する手法では想定されていない、任意の次数の交互作用まで完全に制御することができる。例えばNDBと介護DBを連結することで、NDBに具体的なアウトカム情報をはじめて付与できる。現在は同じマシンに医療レセプト情報と介護レセプト情報をロード出来ており、現在この2つのデータベースの接続精度についての検証を行っている。この有機的接続ができれば医療・介護・健診の状況をすべて評価した上でエビデンスを構築できると考えている。またレセプトを用いた保険診療のすべての医薬品・医療機器・診療行為・傷病名を対象とするいわば臨床試験実施システムが構築され、RCTの担ってきた役割の多くの部分が観察研究によって置き換わり、比較的安価かつ最適なデザインで実施可能となると思われることから、その効果について検証作業を行っている。これまで観察研究では交絡因子の存在によって強固なエビデンスを構築できないと言われてきたが、本研究によるA.死亡、ADL、IADL、QALY等のアウトカムの付与とB.測定された交絡因子のすべての完全一致によって、観察研究の新たな可能性が開かれることから、その確立を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
・アウトカム情報の設定:2024年度 引き続きNDBと介護DBとの連結におけるカナ氏名に基づく個人突合IDの突合の感度・特異度の検証を実施する。精度に問題がなければ個人突合IDに基づく突合を実施、ID0のように新たな名寄せ技術の開発へと進める。 共変量(代表例:問診項目、HbA1c、クレアチニン、AST、ALT、医療費、ADL、認知症進行度、介護度など)を完全に一致させる新規統計手法を用いて、NDBの悉皆性を活かしつつ、飛躍的に比較可能性を高め交絡問題を克服する。本手法は観察されている交絡因子について、集団と集団ではなく個人と個人を比較・対照とできる点で、RCTよりも層化解析、サブ解析に適した手法となり得る。代表的な課題として、これまで交絡因子のために結論が分かれていた、低用量ピルを処方したことにより血栓塞栓症のリスクがどの程度高まるかを定量的に明らかにする。他にも、特定健診受診と死亡率や健康寿命、ADL、認知症の進行度との関連など、医学的重要性の高い命題について明らかにできる。他にも、特定保健指導の糖尿病発症抑制効果、医療費抑制効果など、RCTを補完しうる多数の研究を開始する。研究範囲は医学系臨床全般に及び、特に、倫理面あるいはアウトカムの発生率が低く実質的にRCTが組めないような命題に積極的に挑戦する。本研究により、低用量ピル等の薬剤の副作用についての定量的なリスク評価、特定健診などの政策の効果の定量的な評価など、従来定量的に評価することが困難であった「効果」や「リスク」を最適なデザインで定量化できる。本研究により、従来できなかった定量的な評価が最適なデザインで可能になることで、質の高いエビデンスに基づく意思決定が実現できる。
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