研究課題/領域番号 |
23K00311
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研究機関 | 九州女子大学 |
研究代表者 |
古浦 修子 九州女子大学, 人間科学部, 教授 (60831229)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 日本近現代文学 / 日本キリスト教文学 / 遠藤周作文学 / 音楽 / 宗教性 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本人とキリスト教との関係を追求することを生涯のテーマとした遠藤周作の文学において表象される聖性や永遠性と、作中に配置される音楽との関係を明らかにするものである。特に、遠藤の純文学・中間小説・歴史小説・戯曲などにおいて作品世界に底流する音楽がもたらす効果を読み解く。そのうえで、作中人物の心の内にリフレインされる音楽が遠藤文学における永遠性の志向との接点となっていること、すなわち小説(言語)の枠組を超えたところにある世界を顕現させる装置としての音楽の役割を評価する。 令和5年度は、「歴史小説『王の挽歌』と短篇「無鹿」にみる音楽と宗教性」と題し、切支丹大名・大友宗麟を主人公とする『王の挽歌』(1990~1992 年)における歴史と痕跡の関係についての過年度の研究実績を踏まえ、大友宗麟と西洋音楽にまつわるエピソードを挿入した遠藤最後の短篇小説「無鹿」についての研究を進めた。 先行研究において「無鹿」自体を取り上げた論考はごく少数であり、作品論やテクスト分析の観点から本作品を論じたものは皆無と言ってよい。また、遠藤周作文学と作家自身の音楽体験の関係や、遠藤の作品において音楽がどのように表象されているかといった観点による研究もほぼ進んでいない。そのため、まずは日本近代文学における作家の西洋音楽体験、音楽体験を持つ作家の作品における音楽の影響、遠藤と同時代あるいは関連性の見られる作家や評論家による音楽評論、讃美歌や典礼音楽の研究や音楽心理学に関する文献など、幅広い先行研究を収集し検討を行い、遠藤文学における音楽の位置付けと宗教性との関連を明らかにした。 その成果として、日本キリスト教文学会関西支部冬季大会(令和6年1月27日(土)、オンライン開催)において、研究発表「遠藤周作『無鹿』論―人生に底流する〈音楽〉を視座として―」を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
勤務校において役職者を務めており研究時間を十分に確保できなかったこと、研究課題があまり先例のない内容で遠藤周作文学に限定しない情報収集や研究方法の精査が必要であったことから、令和5年度に遂行する予定であった研究課題「歴史小説『王の挽歌』と短篇「無鹿」にみる音楽と宗教性」を当該年度内に完了することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
先述した令和5年1月の学会発表および令和6年5月に行った学会発表をもとに令和5年度論文を執筆し、令和6年度10月に学会誌への投稿を予定している。 また、この論文執筆作業と並行して、令和6年度の研究課題「『鉄の首枷―小西行長伝』に描かれる信仰者像と「水の人間」」に関する文献を収集し、令和6年度末もしくは令和7年度初めに学会での研究発表を行えるよう調整する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」欄に入力したとおり、令和5年度の研究課題を完了することができなかったことが主な理由である。次年度使用額は、令和5年度課題の論文執筆に伴う参考文献の補強など、派生する諸経費に充当する。 また、令和5年度に取り扱った作品『王の挽歌』「無鹿」は、令和6年度の研究対象となる『鉄の首枷―小西行長伝』とも直接的な関係が見出せるため、令和6年度に重複する研究テーマについての文献収集の費用としても充当する。
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