研究課題/領域番号 |
23K01070
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
川村 康 関西学院大学, 法学部, 教授 (00195158)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 基礎法学 / 法制史 / 法典編纂史 / 非刑罰法典 / 東洋史 |
研究実績の概要 |
唐令が前近代中国における非刑罰法典の精緻な古典的形態として重視される一方で、宋令は粗雑で不完全な存在として軽視されてきた。このような評価は、唐令が佚文収集や復原研究の成果によって体系的に把握できるのに対して、宋令は佚文収集や復原研究が不充分であることに起因する。そこで本研究では三つの課題の解決をめざす。第一には宋代以降の史料に伝存する宋令の佚文を抽出して体系的に集成すること、第二には集成された宋令の重複分を統合し校訂を加えて原文を復原すること、第三には復原された宋令の原文の構造や内容を分析したうえで唐令の構造や内容と比較対照して両者の相互関係を明確にすることである。これらの課題の解決を前提としてこそ、宋令への正当な評価が実証的に導き出されるのである。 令和5年度は第一の課題の解決をめざす個人的研究作業を中心とし、南宋の法書『慶元条法事類』から慶元令を抽出して、篇目別に排列し校訂を加えた。また、研究協力者(同志社大学等非常勤講師・七野敏光、金沢大学教授・中村正人)から専門領域の視点と知見にもとづく助言と批判を得るために「唐宋令比較研究会」を結成し、令和6年2月に1回の研究会をZoomによる遠隔形式で開催して、研究代表者の口頭報告「慶元条法事類所収勅令の篇目について」に対する助言と批判を得た。これらの成果として「慶元令集成稿」を作成し、本研究の成果報告書の第一分冊である『唐宋を中心とする前近代中国法の変容と展開に関する基礎的研究 第一分冊』に掲載して、令和6年3月に公表した。これに加えて、令条を含む宋代の法条佚文の収集と整理校訂の一環として、『永楽大典』および『宋会要輯稿』に残存する『慶元条法事類』の遺文に校訂を施し、その成果を「永楽大典本慶元条法事類残本校訂稿」として、令和5年10月刊行の『法と政治』74巻2号に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、上述した三つの課題のうち、第一の課題の解決をめざす個人的研究作業を中心とした。その成果として「慶元令集成稿」を作成し、本研究の成果報告書の第一分冊である『唐宋を中心とする前近代中国法の変容と展開に関する基礎的研究 第一分冊』に掲載して公表することができた。また、令条を含む宋代の法条佚文の収集と整理校訂の一環として、『永楽大典』および『宋会要輯稿』に残存する『慶元条法事類』の遺文に校訂を施し、その成果を「永楽大典本慶元条法事類残本校訂稿」として、研究代表者の所属機関の紀要である『法と政治』に掲載することができた。これらの成果により、第一の課題は一応の解決が得られたといえ、この点では当初の計画にかなう進展をみたといえる。 他方、研究協力者から専門領域の視点と知見にもとづく助言と批判を得るために結成した「唐宋令比較研究会」は、当初は2回程度の開催を予定していたが、上述の「慶元令集成稿」ならびに「永楽大典本慶元条法事類残本校訂稿」の作成作業に時間を要したため、1回の研究会を開催できたにとどまる。これにより、研究協力者からの助言と批判を充分には得ることができなかったため、この点では若干の遅滞があったといえる。 これらを総じて、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度以降は、上述した三つの課題のうち、第二の課題と第三の課題の解決をめざす研究作業が中心となる。第一の課題について得られた一応の成果である「慶元令集成稿」を土台として、第二の課題である宋令の原文の復原、第三の課題である復原された宋令の原文と唐令との比較対照へと、個人的研究作業を進めてゆく。その過程においては、研究協力者から専門領域の視点と知見にもとづく助言と批判を得る必要がある。 【令和6年度】上述した「慶元令集成稿」において篇目別に集成し校訂を加えた慶元令について、その重複分を統合し校訂を加えて原文を復原することが個人的研究作業の中心となる。この研究作業について研究協力者から助言と批判を得るための「唐宋令比較研究会」を2回程度、Zoomによる遠隔形式で開催し、研究代表者による口頭報告とこれに対する質疑を行う。これらの成果にもとづいて「慶元令復原稿」(仮題)を作成し、本研究の成果報告書の第二分冊に掲載して公表する。これに加えて、令条を含む宋代の法条佚文の収集と整理校訂の一環として、『武経総要』や『洗冤集録』などから勅令格式の遺文を収集して校訂を施し、その成果を研究代表者の所属機関の紀要である『法と政治』に掲載することをめざす。 【令和7年度】令和6年度に作成する「慶元令復原稿」(仮題)において復原した慶元令について、これを唐令および北宋の天聖令と比較対照し、「唐宋令合編稿」(仮題)を作成することが個人的研究作業の中心となる。この研究作業について研究協力者から助言と批判を得るとともに、研究協力者の専門領域に関する個別研究報告により新たな知見を獲得することを期して、「唐宋令比較研究会」を2回程度、Zoomによる遠隔形式で開催する。これらの成果をまとめて本研究を総括し、成果報告書の第三分冊を作成して公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果報告書は大部のものとなることが予期されたため、当初から二分冊として作成公表する方針であったが、研究の進展により、成果報告書は三分冊として作成公表することが適当であると判断された。このため第一分冊を令和5年度に作成公表することとし、令和5年度の研究経費では、成果報告書の第一分冊(総ページ数pp.400程度、60冊作成)の印刷製本費26万円余を「その他」の費目内で使用することを想定した。 しかし実際に作成した成果報告書の第一分冊である『唐宋を中心とする前近代中国法の変容と展開に関する基礎的研究 第一分冊』の総ページ数はpp.332と想定を下回り、その印刷製本費(60冊作成)も22万円を使用するにとどまった。この結果として40,684円の未使用額が生じたため、これを次年度使用額とすることとした。 この次年度使用額は、令和6年度に作成公表を計画している成果報告書の第二分冊(総ページ数pp.350程度、60冊作成)の印刷製本費の一部として、「その他」の費目内で使用する予定である。
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備考 |
川村康『唐宋を中心とする前近代中国法の変容と展開に関する基礎的研究 第一分冊』(発行年2024年、総ページ数pp.332)を本研究の成果報告書の第一分冊として自費出版した。
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