研究課題
本研究は経済制裁の中でも特に国内法の域外適用に関する実践を取り上げて、その国際法上の評価基準を設定することを目的とする。研究初年度に当たる2023年度は、これまで違法な域外適用であるとして国際紛争が生じた米国の二次制裁(制裁対象国と第三国の取引を規制する制裁)の再検討を通じて、国家の対立点を抽出するとともに、現在の国家実行を収集・分析する作業を行った。第1に、米国の二次制裁を巡る過去の事例(シベリアパイプライン事件、対イラン制裁)における国家の対立点は、一見して域外適用の国際法上の合法性を巡るものであり、また学説上も、そのように扱われてきた。しかしながら、それは文脈依存的であり、一方的・域外的な制裁措置であっても、国際共通利益の保護に関する手段が欠如している状況での補充手段である場合には許容されうることを示した。第2に国家実行の推移をみると、ロシアのウクライナ侵攻を端緒として、G7諸国を中心に広範な制裁が行われている。とりわけこれまで米国の二次制裁(制裁対象国と第三国との取引の規制)を違法な域外適用であるとして対抗立法を発動することすらしてきたEUが、自らも二次制裁に舵を切ったことに注目し、第1の点の検討によって得られた知見との整合性を検討した。
2: おおむね順調に進展している
理論面のでの分析、国家実行の収集のいずれについても予定通り研究を進めている。
今後は、国家実行の分析をさらに進めるとともに、理論面での考察を深めることを予定している。一方で、国家実行については、対ロシア制裁の進展を跡付けるとともに、その特殊性(いわゆる西側諸国に実行が集中していること)にも注目して、他の制裁実践との相対化を図る必要がある。他方で、理論面では、現在の国際社会の分断状況も視野にいれ、地政学的な知見も参考にしながら、多様な実践を把握することのできる規範枠組みの構築が可能であるかどうかを検討する。
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Austen Parrish and Cedric Ryngaert (eds.), Research Handbook on Extraterritoriality in International Law (Edward Elgar, 2023)
巻: no vol ページ: 164-179.