研究課題/領域番号 |
23K01174
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田山 輝明 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 名誉教授 (30063762)
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研究分担者 |
志村 武 関東学院大学, 法学部, 教授 (80257188)
黒田 美亜紀 明治学院大学, 法学部, 教授 (60350419)
藤巻 梓 国士舘大学, 法学部, 教授 (70453983)
山城 一真 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (00453986)
青木 仁美 桐蔭横浜大学, 法学部, 准教授 (80612291)
橋本 有生 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (90633470)
梶谷 康久 朝日大学, 法学部, 講師 (80804640)
足立 祐一 帝京大学, 法学部, 助教 (80734714)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 成年後見制度における本人の尊重 / 精神病者の収容に関する法律 / 徹底した本人の権利の尊重 / 医師による患者の権利の諸制限 / 障害者権利条約 / 本人サイドからの権利救済の申立て制度 / 成年者保護協会 |
研究実績の概要 |
山城一真は、留学の成果をまとめる一環として、日本の成年後見制度について意見をまとめつつあり、「成年後見制度の在り方に関する研究会」のメンバーとして、2023年においても同研究会において引き続き意見を述べている。志村武は、「アメリカ合衆国ニューヨーク州における意思決定支援契約法の成立」の研究を行っている。共同研究者は、障害者権利条約、特に第12条の趣旨を如何にして日本において実現できるかについて、欧米諸国の経験を参考にしながら、研究してきた。なお、インスブルック大学のガナー教授を招いて公開講演会を開催したが、それによれば、各国ともに、誠意をもって障害者権利条約への対応を行っており、これから「立法による対応作業」を行う日本にとっても、大いに参考になる。 日本の制度改革に関する「具体的提言」については、山城自身が「あり方研究会」で悩んでいることを含めて、問題提起をおこない、共同研究者を含む者達で議論を行う予定である。 研究代表者(田山)は、オーストリアで精神病者の収容に関する法律が、障害者権利条約への対応を考慮して改正されたので、改正法や関連文献の翻訳等を行った。具体的には、学術的な観点から、ガナー教授の論文と実務的な観点から、ウルリケ・トヨオカ判事の論文を紹介した。なお、同法の全訳も準備している。改正法の内容は、徹底した本人の権利の尊重とそれを前提とした医師による患者の権利の諸制限であり、裁判所への本人サイドからの権利救済の申立て制度(担保)である。今後は、この新しい制度がいかに機能していくかを見守っていきたい。同国でも、本人、医者と裁判所だけでなく、成年者保護協会(成年後見センターに類似する組織)が重要な役割を果たしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の研究会においては、狭義の「後見」類型(制度)が障害者権利条約との関連で問題である、即ち、強力な法定代理権の存在等の点で、最も大きな欠陥を有しているので、これを柱とした「3類型」の維持に固執すべきではないとの意見が強くなっている。 現行の法定後見制度の中では「補助類型」が最も欠陥が少ない。法定代理権と無縁ではないが、原則としてこれを前提としていないので、この類型を中心にした改革が良いのではないか、との意見も有力である。 身上看護との関連では、成年後見人の任務として考えるのではなく、社会福祉の諸制度との関連で考えるべきであろう。特に、広義の成年後見人にはかなりの割合で法律家が就任しているから、問題になる。法律家の中にも社会福祉に造詣が深い者もいるが、一般的ではないので、専門職の選任に際しては、この点を考慮すべきである。 そこで、一般論としては、個人のマンパワーを前提にするのではなく、成年後見センターや社会福祉協議会のような多面的な専門家のマンパワーを利用できるシステムを前提とすべきである。法律家に限らず、社会福祉や精神医学の専門家等に相談できるシステムが望ましい。 現在の日本のような状況では、重度の知的障害者や認知症高齢者の中には、どうしても最小限度の法定代理権を必要とする者がいるので、そのためには、最小限度、民法による対応が必要になる。しかし、それを実現した場合には、その利用を如何にして制限するか、が最重要な課題となる。一般的な人手不足の状況において、法定代理権の利用を厳しく制限することは至難の業であるかもしれないが、他国の事例・制度などを参考にしながら、具体的提言をまとめたい。
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今後の研究の推進方策 |
直近の課題としては、現行成年後見制度の改正問題に、いかに協力していくか、である。そのためには、私たちの研究成果を公表して、利用していただけるようにしなければならない。成果の公表は、各研究者が個別に行っているが、研究会としても、季刊・比較後見法制(紀要)に成果の一部を掲載している。 更に、国別に異なる各共同研究者が個人的にコンタクトを取れる専門家と相談して、来日を含めて、共同研究を提案すべきであると考えている。 同時に、各共同研究者が、研究会において「話題提供」の形で、各自が問題提起を行っていく予定である。 内容的には、障害者権利条約が求めている「本人意思の尊重」を前提として、ミニマムの法定代理権制度の設計、自分で自分自身の権利を守れない者の権利擁護支援等の方策等、が最重要である。日本の制度の重要な欠陥の一つに、一度審判を受けたら、「障害等」がなくならない限り永久に審判の効力が存続するということが挙げられている。独、仏等のヨーロッパ諸国では、既に期限付き制度(3年~5年)に転換している。本人の権利擁護支援の観点から、我々も改正を提案すべきであると考える者が多い。この点は、更に具体的に検討したい。 なお、日本では、医療に関連する「リビングウィル」等も確立していないので、これを成年後見制度と関連し得る制度として立ち上げるか、という点も喫緊の課題である。現在、私たちの研究会に医学者に来ていただいて意見交換を行うことを考えている。特に、高齢者であって、認知症等のために成年後見制度の利用が必要になってくると、同時に後見人等の医療代諾権の問題が発生する。ドイツのように、担当医、成年後見人、本人の「リビングウィル」の一致により、一定の治療が可能となるような制度も検討に値する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外研究者の招請費用の支出が抑えられたため。研究テーマに関連する論文の翻訳などを行っているが、研究代表者等が翻訳を行っているため、費用の消費にはつながらない場合が多くなっている。ガナー教授を初め論文の著者が翻訳の許諾料を請求されないことも費用の節約につながっている。 次年度以降、当初の見込みよりも費用の増加が予想される招請費用および海外の文献入手に関する費用に充てる予定である。
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