研究課題/領域番号 |
23K01976
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研究機関 | 西九州大学 |
研究代表者 |
柳田 晃良 西九州大学, 健康栄養学部, 教授 (00093980)
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研究分担者 |
四元 博晃 西九州大学, 健康栄養学部, 教授 (50321310)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 認知機能 / メタボリックシンドローム / 脂質代謝 / 機能性脂質 / EPAーリン脂質 |
研究実績の概要 |
超高齢化社会に伴い、健康寿命をいかに伸延させるかが生活の質(QOL)の維持や医療経済的な面から世界的な課題となっている。健康寿命の伸延には抗メタボリックシンドロームおよび抗老化作用を持つ機能性食品の利用が有効である。脂質のホメオスタシスの破綻はメタボリックシンドロームやアルツハイマー病を増悪させると推察される。これまで各種脂質の機能解析に関する多くの研究は DHAを用いて行われているが、他の脂肪酸の機能性についての解析は少ない。本研究では動物及び植物油来のn-3PUFAを含有する脂質のメタボや認知機能改善作用について検討した。その結果、EPA含有脂質はDHA含有脂質と同等の有益な機能を有していることを認めた。しかしながら、それらの機能の基盤となる遺伝子レベルでの網羅的な影響についての詳細は明らかになっていない。そのため、本年度はEPA-リン脂質摂取したメタボモデル動物(db/dbマウス)の脳細胞および肝細胞での応答を明らかにする目的で、 RNA-Segを用いた転写変動の包括的解析を通して作用機序を明らかにすることとした。そのため、脂肪肝や認知機能が修飾される動物系において食事脂質に依存的して発現が修飾される肝臓における遺伝子群を解析しその責任成分を見出した。脂質に依存して変動する遺伝子としてCyp2Cサブファミリーや脂肪酸代謝を制御する遺伝子が見出された。すなわち、新奇な機能性脂質の機能特性の遺伝子レベルでの機構の一部が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メタボや認知機能を制御する脂質の作用機序を脂質代謝レベルで明らかにしたが、特定の遺伝子や生物学的経路は依然として十分理解されていない。本年度は、各種脂質食をメタボモデル動物(db/dbマウス)に与えたのち、脳細胞および肝細胞を取りだし解析した。その結果、EPA-リン脂質食は脂質代謝、炎症、抗炎症に関連する主要遺伝子の発現レベルに大きく影響していた。しかし、EPA-リン脂質の効果を定義する適切なマーカーの選択はいくつかの先行研究からの推測や仮定に基づいていたが、依然としてEPA-リン脂質の生理的機能は十分理解されていないのでこの領域を研究することとした。 本年度の研究では、EPA-リン脂質食を摂取したdb/dbマウス臓器のトランスクリプトームのRNA-SEQを用いた転写変化の包括的解析を行うことを目的とした。まず、脂質代謝が活発な臓器として肝臓での解析から始め、EPA-リン脂質依存的に発現が上昇または低下する遺伝子を見出した。3つのチトクロームP450(Cyp)2Cサブファミリー、Cyp2c37, Cyp2c50, Cyp2c4の発現が上昇することでエイコサノイドやエポキシミドの変化が炎症抑制に関与することが推測された。モノアシルグリセロール(Magl)脂肪酸結合蛋白質4(Fabp4)の発現量にも変化がみられた。一方、脂質代謝関連酵素遺伝子への影響もトランスクリプトームのRNA-SEQを用いた解析で認められた。本研究は、生体内での機能性脂質であるEPA-リン脂質が持つ有益な効果の根底にある分子メカニズムに関する洞察を提供した点で、当初の計画が概ね順調に進展していると判断している。一部のデータをまとめてPLOS ONE に投稿することができた(2023年12月受理)。脳細胞機能への影響については現在解析中しており、進展が計画より遅れているので評価を(2)概ね順調に進展している、とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、EPA含有脂質の機能をトランスクリプトームのRNA-SEQを用いた遺伝子の網羅的解析から明らかにした。メタボリックシンドロームは認知症などの発症・進展と関連することが認められているので、次に脳細胞の認知症に関与する各種因子の応答について調べる。また新たに調製中のリン脂質分子種を用いて抗メタボ作用と抗アルツハイマー病・認知障害作用及び抗疲労作用を調べる。実験系としては、EPA(リン脂質型、T G型、エステル型)含有脂質を含む食餌を摂取した老化モデル動物およびAPP ・ PS 1 細胞を用いたin vitro系で評価する。なお、空間認知能、記憶はWater Maze Testで評価し、運動能力や疲労軽減作用はランニングなどで評価する。脳の代謝変勣はアミロイドβ仮説を検証するため、脳各部位での可溶性及び不溶性アミロイドβの定量、APP(アミロイド前駆蛋白)の定量、βセクレターゼ活性、スーパーオキシドデスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH)、マロンアルデヒド量などを測定する。APP ・ PS 1 細胞系でのアミロイドβ発現や濃度、関与酵素セクレターゼ活性、脳由来神経栄養因子(BDNF)、炎症マーカー等を指標としてスクリーニングする。これらの研究で、新奇機能性脂質のメタボやアルツハイマー病への影響を評価することができる。これらの研究は機能性脂質の製品実装化に有益な情報を提供するものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入品目の在庫不足および試薬発注が遅れたため使用した支出額が少なくなった。次年度は新規に購入する試薬類が多くなるのでその補填に使用する計画である。
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