研究課題/領域番号 |
23K02901
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
小林 春美 東京電機大学, 理工学部, 特定教授 (60333530)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 意図明示的コミュニケーション / 意図明示手がかり / 部分名称 / 幼児 / 言語発達 / 語彙獲得 / 視線 / 指さし |
研究実績の概要 |
本研究は子どもにおける「意図明示的コミュニケーション」の発達、すなわち子どもはコミュニケーションの場面に応じて、意図明示手がかりを自発的に使うこと(創出)ができるか、そこに発達的変化は見られるかを調べる。意図明示手がかりとは、指さしや視線など伝達したいという意図を提示するために使われる手がかりであり、この手がかりが明示されることで、聞き手は話し手の発話に対し必要な推論を行える。こうした意図明示手がかりを提示して行うコミュニケーションは、「意図明示的コミュニケーション」と呼ばれ、人間のコミュニケーションの本質的特徴を持つものである。これまでの子どもの意図的コミュニケーションに関する研究では意図明示手がかりへの子どもの感受性や理解が議論の焦点になっていたが、子どもがそれをどのように創出できるかについての議論はあまりなされていない。本研究では応募者らが開発した新しい実験パラダイム(部分名称教示課題)を利用し、意図共有の過程が名称教示に寄与するという視点から、子どもの意図明示手がかりの創出を調べる。部分名称教示課題とは、事物全体の名称(クルマ)に加え、事物の部分の名称(タイヤ)を、その名称を知らない他者に自由な方法で教える、というものである。被教示者が部分(タイヤ)に注意を向けるためには、何らかの手がかりを明確に提示しなければならない。部分名称を他者に伝える際に、子どもが特別に制御された指さしなどの意図明示手がかりをどのように使うかを明らかにすることにより、意図明示手がかりを実際に使う能力の発達を明らかとすることができる。加えて、他者に伝えることが苦手な特徴を持つ子どもの支援に役立つ知見も得ることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は実験デザインを進め、一部の実験を行い、日本認知科学会にて口頭発表を行った。事物の部分に指先を接触させる指さし(接触指さし)を利用し、指さしに加え実験者の視線シフトからも他者行為の見積もりができるかを検討した。3歳児・5歳児を対象とし、部分と全体が入れ子となった、より複雑な状態の事物の部分名称を学べるかを調べた。結果、いずれの年齢群も、接触指さしを解釈して語を学べたが、視線シフトの効果は5歳児でのみ明確であった。加えて、日本認知科学会のジャーナル「認知科学」に、「意図明示的コミュニケーション:子どもの語彙学習における効果と役割」というタイトルで展望論文を掲載した。本論文では意図明示的コミュニケーションの概念を説明するとともに、これまでの乳児と幼児の言語発達研究を意図明示手がかりの理解と使用という観点から幅広くレビューし、今後の課題も示した。意図明示的コミュニケーションについての学界における理解の促進に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
3歳児と5歳児において教示行動の発達が見られたので、理解と産出の双方から調べていく。理解については、実際に部分名称の獲得に結びついていたかをより詳細に調べる。産出では他者にどのように教えるか、子どもが事物を向ける方向や、指を使う方法、たとえば部分に接触したり、部分にタッピングをしたりして教えるか、などをビデオ分析も含めて明らかにしていく。結果を言語発達・認知科学の専門ジャーナルに投稿し議論を深めるとともに、一般向けも含めて研究成果の公表に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果の一部の発表を国内会議で行ったが、これには所属機関の学園研究費を充当させることができ、旅費を使用しなかった。次年度では国際会議で発表を行う予定であるため、それに充当させる計画である。
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