研究課題/領域番号 |
23K03186
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
千原 浩之 琉球大学, 教育学部, 教授 (70273068)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | フーリエ積分作用素 / 測地線X線変換 / 線質硬化 / artifact / トモグラフィー |
研究実績の概要 |
2023年度の研究成果は投稿中の単著 arXiv:arXiv:2402.06899, 39頁だけである。現実のCTスキャナーでは人体組織に金属部分が存在するとX線の線質硬化とよばれる現象が起こり再生画像には線状の artifact (もともと存在しない特異性)が現れる。拙著(SIAM Journal of Mathematical Analysis, 2022)ではn次元ユークリッド空間上の関数をd次元アフィン部分空間上の積分値に対応させるd平面変換について線質硬化の最も簡単なモデルを考察した。有限個の狭義凸有界領域の金属部分が存在するという設定の元で任意の2つの金属領域に対して共通接平面の2つの接点を結ぶ共通接線の全体のなす円筒状あるいは錐状の超曲面を特異台とする conormal distribution とよばれるシュワルツ超関数が線質効果で生成されることが artifact の本質であるというのが主結果である。(d,n)=(1,2)の場合に Park-Choi-Seo (2017) および Paracios-Uhlmann-Wang (2018) によって初めて超局所解析による線質硬化の数学的研究がなされていたが、この研究はその高次元化および一般化である。残念ながらこの研究では補題等の意味がわからないことが多かったので、2023年度はリーマン多様体上の設定にして測地線X線変換を考察した。2次元曲面または定曲率空間であるという強い仮定の下に全く同じ結果を得ただけでなく理論全体の意味がよく見えるようになった。この強い仮定はヤコビ場がスカラー関数と平行移動の積になるための十分条件である。この条件なしでは双対X線変換の canonical relation と観測データの波面集合の合成自体がほとんど成立せず、このような現象そのものがあまり起こらないと予測する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では線質硬化の問題について双曲空間や球面など具体的な設定で少しずつ進めていく予定であったが、一気にまとめて最終結果と思われる結果が得られたのに加えて、ユークリッド空間の設定ではわからなかった幾何学的意味の多くがヤコビ場の全体の働きから定まることが明確になったことが最大の理由である。また、この研究成果をまとめたプレプリントを見たテンソル・トモグラフィー等を専門とする Jesse Railo 氏 (Associate Professor of Mathematics, Lappeenranta University of Technology, Finland) から共同研究の申し出があり、2024年3月から隔週で幾何学的トモグラフィーにおける解析的超局所解析の研究を目指して Zoom で討論するようになったことも理由の1つである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究活動により、リーマン多様体上の測地線X線変換のフーリエ積分作用素としての canonical relation に関してものごとが非常によく見えるようになったので、同じ設定で考察すべき研究課題に取り組む。具体的には、トモグラフィーの観測データに相当する測地線X線変換のデータが不十分な場合の再構成可能であるための必要十分条件を求める問題、および、ある種の完備リーマン多様体上の設定で測地線で定義されるラドン変換やX線変換とスペクトル理論で定義される対応物は本質的に同じか否かを調べる問題に取り組む。 これとは別に現在進行中の Jesse Railo 氏との解析的多様体上のトモグラフィーのある課題についての研究も進める。この研究では成果を目指すだけでなく、多変数複素解析の基礎を利用して自力で必要となるフーリエ積分作用素の複素数値相関数を構築する能力を養って研究課題の可能性を広げていきたい。 残念ながら2023年度は講演依頼がなかったが、2024年度は現時点で香港城市大学とヘルシンキ大学での研究集会の一般講演を申し込んで講演させていただけることになっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は京都大学数理解析研究所共同研究(公開型)の研究代表者として出張したが、それ以外の出張の機会がなかったことが理由である。筆者の研究分野は「佐藤ではなくヘルマンダーの側の超局所解析とその周辺の応用数学」とよぶのが適当であると思われる比較的大きい分野に属するが、日本国では分野の存在自体があまり知られておらず、出張は自ずと外国へ行くことが中心になる。2023年度は実際に出張可能でかつ出席すべき研究集会があまりなかった。繰越金は2024年6月の香港城市大学での研究集会に出席するための旅費として使われる。
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