研究課題/領域番号 |
23K04995
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
牟田口 祐太 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (30724314)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | D-amino acid / biofilm / peptidoglycan / lactic acid bacteria / BCAA / NCDAAs |
研究実績の概要 |
1. NCDAAs生産乳酸菌のIse遺伝子(ise)破壊株の作成 非標準D-アミノ酸(NCDAAs)であるD-分岐鎖アミノ酸(D-BCAA)を生産する乳酸菌Lentilactobacillus otakiensis JCM 15040とLimosilactobacillus fermentum NBRC 3956を対象とし、温度感受性プラスミドを用いた相同組換え法を用いてイソロイシン2-エピメラーゼ遺伝子(ise)破壊を試みた。その結果、NBRC 3956のise破壊株の獲得に成功した。ise破壊株の菌体内Ise活性は失われており、培養液中D-BCAAの蓄積も消失していた。以上より、NBRC 3956について、D-BCAA生産性を失ったise破壊株の獲得に成功した。 2. NCDAAsによる乳酸菌BF形成阻害効果の検討 分離源が同じ2種の乳酸菌(D-BCAA生産菌Lentilactobacillus otakiensis JCM 15040及びD-BCAA非生産菌Lentilactobacillus kisoensis JCM 15041)を対象に、D-BCAAの添加によるバイオフィルム(BF)量の変化を調べた。96ウェルプレート中のMRS培地に終濃度0, 0.5, 5 mM のD-BCAAを添加し、各乳酸菌を接種後1-4日間静置培養した。そして、ウェル底に形成されたBFをクリスタルバイオレット(CV)染色法で定量した。その結果、JCM 15040のBF量はD-BCAAの添加によって変化しなかったが、JCM 15041のBF量は5 mM D-BCAAを添加した場合に有意に減少した。以上より、NCDAAsがD-BCAA非生産菌のBF形成を阻害する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始時には、L. otakiensis JCM 15040のise破壊株を作成する計画であったが、JCM 15040は安定的なプラスミド導入が困難だったため、プラスミド導入が比較的容易なD-BCAA生産乳酸菌L. fermentum NBRC 3956も対象に加え、ise破壊を試みた。結果として、NBRC 3956のise破壊株獲得に成功しており、予定通りD-BCAA生産乳酸菌の野生株とise破壊株との比較実験を実施することが可能となった。 また、D-BCAA非生産乳酸菌L. kisoensis JCM 15041において、D-BCAAの添加によりBF形成量が有意に減少することを見出しており、NCDAAsの乳酸菌BFへの影響の解析についても研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、NBRC 3956のise破壊株に対する相補株を作成した後に、NBRC 3956の野生株、ise破壊株、相補株の3株を対象として、以下の3項目の解析を実施し、BF、細胞壁、遺伝子発現の違いを3株間で比較する。 <1. NCDAAsによるBF形成阻害効果>引き続き、CVによるBF染色法にて、NCDAAs濃度とBF形成阻害効果を検討する。次に、蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡によって、細胞外核酸、細胞外タンパク質、細胞外多糖といったBF中の細胞外高分子物質の動態にNCDAAsが与える影響を解析する。 <2. NCDAAsによる細胞壁リモデリング>NCDAAs存在下および非存在下での乳酸菌のペプチドグリカン(PG)量や組成の変化を解析する。PG量の測定には、バンコマイシン蛍光誘導体によるPG標識後の共焦点レーザー顕微鏡観察や、PG加水分解物中のジアミノピメリン酸をニンヒドリン反応で検出する方法を用いる。また、PGのムラミダーゼ処理によって得られるムロペプチドを液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)で解析することで、PGへのNCDAAsの取り込みの有無を調べる。 <3. NCDAAsによる遺伝子発現変動>NCDAAsが乳酸菌のBF形成や細胞壁リモデリングに与える影響の作用機序を遺伝子レベルで明らかにするため、次世代シークエンサーを用いてNCDAAsの有無の両条件下における菌体中mRNAを網羅的し、NCDAAsの有無で遺伝子発現量が増減する遺伝子を明らかにする。
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