研究課題/領域番号 |
23K05109
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
三谷 塁一 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (40773304)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ビタミンB3 / 脂肪組織 / NAMPT / 耐糖能 / 2型糖尿病 / NAD |
研究実績の概要 |
高齢時の2型糖尿病の発症は、老化によって成熟した脂肪細胞数が減少することが一因である。成熟脂肪細胞は糖や脂質の代謝機能を持ち、この機能の破綻が2型糖尿病の発症リスクを上昇する。従って、高齢時2型糖尿病の予防方策を提案するためには、老化によって変化する脂肪細胞の分化制御機構の解明が不可欠といえる。私達はビタミンB3(B3)の代謝酵素を阻害することで脂肪前駆細胞から成熟脂肪細胞への分化が減退することを発見している。そこで、本年度はB3代謝系による脂肪細胞の分化制御機構の解明をこころみた。 ビタミンB3の代謝物であるNADは脱アシル化反応の基質として働くことでタンパク質の機能を制御する。従ってB3代謝系がタンパク質の脱アシル化を介して脂肪細胞の分化に寄与する可能性がある。B3の代謝酵素であるNAMPTの酵素活性を阻害すると脂肪細胞分化の主要転写因子であるPPARγの発現量は転写レベルで抑制されたが、その上流に位置するC/EBPβ、C/EBPδの発現量は変化しなかった。また、脱アセチル化酵素であるSIRTファミリーをノックダウン(KD)した結果、SIRT1、SIRT3のKDでは脂肪細胞の分化に影響がなかったものの、SIRT4をKDすると脂肪細胞の分化が著しく抑制された。SIRT4のKDはPPARγの発現量は減少したものの、C/EBPβの発現量には影響がなかった。従って、SIRT4のKDはNAMPTの阻害と同様の作用を示した。脂肪細胞分化に関与するSIRT4の標的タンパク質を探索した結果、ミトコンドリアタンパク質であるAdenine nucleotide translocator 2 (ANT2)を見出した。ANT2をKDすることで脂肪細胞への分化は抑制されたことから、SIRT4はNADを基質としてANT2の翻訳後修飾に関与することで脂肪細胞への分化を制御していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R5年度の実験計画である「B3代謝系による脂肪細胞への分化制御機構の解明」が順調に進んでいる。また、R6年度の「B3代謝系の活性化が高齢時2型糖尿病の予防に資するかの検討」に関する動物の飼育は開始していることから、年次計画よりも少し進んで解析を行えている。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度は「ビタミンB3代謝系の活性化が高齢時2型糖尿病の予防に資するかの検討」を実施する。 ビタミンB3代謝系の活性化が、実際に老化マウスの脂肪前駆細胞の分化能を回復させ、高齢時2型糖尿病の予防効果を示すのかを検証する。私達はこれまでに, 大豆イソフラボン (ゲニステイン: Gen)の摂取が脂肪組織のNAMPTタンパク質の発現量とNAD合成量を増加(=B3代謝系の活性化)することを健常マウスで見出している。そこで、Gen混餌試料を老化促進モデルマウス摂取させ、高齢時2型糖尿病に対して予防効果を発揮するのかを評価する。試験項目は、糖尿病の病態である耐糖能異常、Adiponectinの産生量、脂肪組織における成熟脂肪細胞数の割合である。 R7年度は「脱アセチル化に着目した脂肪細胞への分化能を活性化する食品成分の探索」を実施する。ビタミンB3の代謝物であるNADは脱アセチル化の基質として働く。従って、ビタミンB3代謝系の活性化と脂肪細胞の成熟化にはタンパク質の脱アセチル化が関与すると考えられる。そこで、食品成分から成熟脂肪細胞への分化を誘導する化合物を脱アセチル化の観点から探索する。ブドウ果皮に含まれるスチルベン化合物は, SIRTによる脱アセチル化反応を促す。スチルベン化合物が脱アセチル化を介して成熟脂肪細胞への分化を亢進するのかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度の研究計画が思いの外順調に進んだことで次年度使用額が生じた。令和6年度の研究計画では動物試験を盛り込んでいるため、その試験の準備(老朽化した動物実験器具の交換)に助成金を使う予定である。
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