研究課題/領域番号 |
23K05415
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研究機関 | 日本獣医生命科学大学 |
研究代表者 |
桑原 考史 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 准教授 (10724403)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 稲作 / 環境配慮 / 米価 / 経営規模拡大 / 水田作付 / 水田農業政策 |
研究実績の概要 |
統計や文献資料の収集と整理を行うとともに、栃木県小山市、滋賀県長浜市、新潟県佐渡市で現地聞取調査を実施し、次のような成果を得た。 滋賀県長浜市の特定集落において、大規模に水田作を行う生産者3名及び土地持ち非農家1名への聞取調査を実施した。調査の結果、米価変動に伴う作付構成の顕著な変化は確認できなかった一方、米価の長期的下落に伴う離農と農地集積、法人化が進行しており、これらが環境配慮農法の展開に影響を及ぼしている可能性がうかがわれた。農地集積や法人化は全国的動向であるため、同集落のさらなる調査分析を通じ、環境配慮農法の展開について一般性のある知見を得られると考えられる。 栃木県小山市では、冬期湛水や有機農法を実践している生産者11名(加えて隣接自治体の生産者1名)への聞取調査を実施した。同市では南北に流れる河川の西側に水田地帯、南東部に畑作地帯が形成されており、冬期湛水の取組は前者の水田地帯で約10年前に開始された一方、有機農法の取組は後者の畑作地帯や市街地周辺部で近年展開しつつあった。これらの取組には米価変動に加え政府や自治体の施策が深く影響していた。同市の実態は、米価変動や施策が、地域条件に応じて環境配慮農法の異なった展開を促す可能性を示唆しており、地域比較分析の枠組構築上、大いに参考となる。 新潟県佐渡市では、研究代表者が継続的に調査を実施している生産者1名と農協、肥料製造業者等に対し、近年の異常気象を踏まえた施肥方針等について聞取調査を実施した。本事業の直接的な成果ではないが、同市の大規模稲作経営における米価変動と化学肥料使用量の関係を分析した論文の掲載が決定した。同論文では2010年代以降、米価下落が化学肥料使用量減少に結びつくという従来の想定が成り立たなくなっている可能性を指摘した。これは今後、本事業の成果を公表していく上での基盤(先行研究)となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に挙げていた事例分析対象地域(4地域)のうち、2023年度は栃木県小山市、滋賀県長浜市に複数回訪問し、行政と農業生産者等に聞取調査を実施した。また、新潟県佐渡市においても農協、農業生産者、肥料製造事業者等への聞取調査を実施した。農業生産者への個別聞取調査件数は小山市12件(隣接自治体の生産者への調査1件を含む)、長浜市4件(土地持ち非農家1件を含む)、佐渡市1件(継続調査)の計17件であり、当初予定していた1地域当たり調査件数(4~5件)を上回るペースで調査が進行している。他地域についても今後調査を進める予定である。 本事業の直接的な成果ではないが、テーマに深くかかわる成果として、新潟県佐渡市における大規模稲作経営体の化学肥料使用量の変化についての論文が受理された(2024年6月公表予定)。 以上の状況から、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、各調査対象地域において行政や農協、農業生産者等への聞取調査を実施するとともに、結果を整理、分析して成果の公表を行う。栃木県小山市における生産者聞取調査は一巡したため、今後は適宜補足調査を行いながら、結果をまとめ成果公表に結びつける。滋賀県では、長浜市の特定集落の水田作農家の悉皆調査を行うとともに、比較対象として耕畜連携を進めやすい地域条件を有する他市町村の調査の実施を検討する。新潟県佐渡市では、大規模水田作法人を中心に定点観測的な調査を継続する。これらに加え、宮城県大崎市等の調査も実施する。調査は順調に進展しているため、調査対象地域数や、地域ごとの対象事例数を増やすことを検討する。調査結果と近年の米価動向を踏まえ、米価と水田の環境配慮農法展開の関係について、経営間、地域間の比較分析を行い、成果公表を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は、研究実施計画に挙げていた事例分析対象地域(4地域)のうち勤務先からもっとも近隣にある栃木県小山市での調査を集中的に実施した。また、業務上の事情から、宿泊を伴わない日帰り調査を断続的に実施した。これらの理由から当初予定よりも交通費や宿泊費(旅費)、レンタカー料金(その他)の執行額が少なくなった。また物品費として、書籍や統計データ収録媒体等を購入したが、既購入や大学図書館に所属の書籍等の利用も図ったため、予定より執行額が少なくなった。人件費・謝金は、調査データの整理を今年度は自身で実施したため、発生しなかった。 2024年度以降は宮城県、新潟県、滋賀県での調査実施頻度を高める予定であり、これに伴って調査旅費の支出が増える見込みである。また、成果発表や情報収集のための学会参加をより積極的に行い、これにかかる旅費の支出も見込まれる。加えて、文献資料の整理と閲覧、調査データの分析と成果の執筆を効率的に行うため、専用のコンピューターの購入を検討する。
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