研究課題
リン酸化や糖鎖付加などのタンパク質翻訳後修飾は、がんを含む様々な疾患の発症や進行に関与することが報告されているものの、複雑な生体試料中にごく微量しか存在しないため、網羅的解析が困難であった。本研究では、微量の生体試料中のO型糖鎖修飾タンパク質を網羅的に解析する独自技術を用いて、がん特異的にO型糖鎖が付加される基質・サイトの同定を試みる。初年度である2023年度は、モデル系として大腸がん細胞株HCT116を用いて、網羅的プロテオーム解析、リン酸化プロテオーム解析、研究代表者が独自に開発したO型糖鎖修飾タンパク質網羅的プロファイリング解析を実施した。HCT116細胞からタンパク質を抽出し、プロテオーム解析用、リン酸化プロテオーム解析、糖タンパク質解析用に試料を調製し、LC-MS/MSを用いて分析を行った。その後取得した質量分析データをプロテオミクス包括的解析ソフトウェアProteome Discoverer 3.1を用いて解析し、タンパク質およびリン酸化部位、O型糖鎖付加部位の同定を行った。その際に、通常の検索条件の検討に加えて、近年導入されたAI駆動インテリジェント検索アルゴリズムCHIMERYSも使用し、同定数の最大化を試みた。現在までに9406か所のリン酸化部位(Ser/Thr)、4830か所のO型糖鎖付加部位が同定された。また、通常の総タンパク質プロテオミクス解析の結果との比較により、同定されるO型糖鎖付加タンパク質の細胞内分布に偏りがないことから本法がバイアスのかからない優れた方法であること、再現性も非常に高いことが確認された。
2: おおむね順調に進展している
ターゲットであるO型糖鎖修飾糖ペプチドを非常に高い効率で濃縮することに成功した。トリプシン消化物をそのまま質量分析計で測定した場合、O型糖鎖修飾のある糖ペプチドは全ペプチドの0.4%しか存在が確認できなかったが、本法を用いることにより、サンプル中の含有率が82%まで上昇した。解析の深度が増したことにより、リン酸化との競合サイトを多数同定することができた。技術基盤の確立が順調に進捗したことから、当初予定を繰り上げ、生体サンプルを用いた実験に向けて準備、検討を進めている。
生体サンプル内で存在量の少ないO型糖タンパク質を網羅的に捕捉する新規技術の確立に向けて研究は順調に進展している。今後HCT116細胞のO型糖タンパク質カタログ化に向けて今回取得したデータのさらなる精査を行い、インフォマティクス解析を進めていく。さらに次年度は、大腸がん患者手術検体(正常部・癌部組織)を用いてO型糖タンパク質の網羅的解析を行い、がん特異的に増加するO型糖鎖付加部位の同定を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Cancer Science
巻: 114 ページ: 1783-1791
10.1111/cas.15731
Journal of Biological Chemistry
巻: 299 ページ: 105128
10.1016/j.jbc.2023.105128