研究課題/領域番号 |
23K05979
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤原 学 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70359933)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 行動可塑性 / C. elegans / 嗅覚回路 / カルシウムイメージング |
研究実績の概要 |
中枢神経系における並列な回路構造(回路の冗長性)にどのような機能的意義があるのかを明らかにするため、完全に回路構造が分かっている線虫の嗅覚回路をもちいて次の解析を行なった。 A) 複数の匂い受容時の匂いの嗅ぎ分けに嗅覚回路がどのように使われているかを明らかにするために次の解析を行なった。嗅覚神経下流の様々な介在神経欠損株を用いて複数の匂い受容時の匂いの嗅ぎ分けが調べたが、単独の介在神経の欠損は匂いの嗅ぎ分けにごく些細な影響しか与えないことが示された。このことから、匂い間の干渉(嗅ぎ分け)が嗅覚神経内で起きている可能性が高まったため、複数の匂い受容時の嗅覚神経の応答の解析を開始した。 B) 嗅覚神経から複数の経路を介して入力を受ける介在神経において、経路を部分的に遮断することでどのように応答が変化するかを調べ、匂い情報の統合とそれによる行動の制御機構を明らかにするための解析を行なった。その結果、複数の嗅覚神経から入力を受けるAIY介在神経での匂い応答が、上流の嗅覚神経間のinhibitionとdisinhibitionによって形成されており、匂い応答のvalenceが精緻な仕組みで制御されていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要で述べたように、計画A,Bは順調に進んでいる。計画C[嗅覚回路へ、個体の運動情報がどのように統合されているのかを調べる]は、AVF神経の解析からスタートし、現在、以下のような端緒的な解析結果を得ている。 線虫のAVF神経は、線虫の動きの周期に似たパターンで興奮する神経である。この神経に着目し、AVF神経を特異的なカスペース発現で除去したところ、線虫の運動速度が低下することが明らかになった。さらに、80匹の線虫のAVF神経活動をCa2+イメージングすることで、まずこの神経のリズミックな興奮パターンを定量化した。その結果、興奮が特徴的な波形をもつことを明らかにした。さらにAVFでのこの特徴的な興奮の波形形成には、外部からのシナプス入力を必要としないことを明らかにした。これらの結果から、AVF神経は細胞自律的にリズミックな振動を形成し、線虫の運動速度を制御している可能性が高まった。AVF神経での発現遺伝子を、シングルRNAseqデータベースCenegenで調べたところ、古典的な神経伝達物質は産生しておらず、代わりに複数の神経ペプチドを合成していることが分かった。今後はこれらの神経ペプチドを手がかりに、AVF神経からのシグナルが嗅覚回路での情報処理に与える影響を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、線虫の並列な嗅覚回路に次のような3つの機能があると推定しそれぞれを解析する計画で、これにより冗長な回路の意義を明らかにすることであった。<計画A>並列な回路構造が、複数の匂いの同時処理を可能にしている。<計画B>嗅覚神経からの情報を複数の経路を介して介在神経が受け取ることで、匂い情報の高度な演算が可能になり、匂いへの「正しい」行動を決定できる。<計画C>嗅覚神経からの情報伝達を担う複数の経路のうちには、「個体の運動」に関する情報と匂い情報との統合を行う経路が存在し、匂い環境の空間把握を可能にしている。 上述したように、計画Aに関しては、複数の匂いの嗅ぎ分けが、嗅覚神経の下流の経路の使い分けによるものではなく、むしろ、嗅覚神経内での処理によるものである可能性が高まった。これはこれで興味深いが、嗅覚回路の機能マッピングの目的のためには、計画BとCにより注力したいと考えている。特に計画Bでは、介在神経AIYの応答が、AIYに入力する感覚神経からの情報の単なる足し合わせではなく、複雑な相互作用によって形成されることを示す結果を得ており、非常に興味深い展開となっている。今後はさらに神経活動の測定を行うとともに、このような神経応答と固体の行動の変化を結びつける解析を行い、生物学的意義を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたイメージング用のカメラの購入は、交付決定額がカメラの価格に足りなかったため断念し、現在の古いカメラの使用を続けることにした。その代わり、イメージングに必要なPDMS流路などの備品を揃えた。その結果、少額ながら本年度の経費が余ることになったが、これは次年度のイメージング実験やその他の実験に必要な備品に使用する予定である。
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