研究課題/領域番号 |
23K05989
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷口 学 大阪大学, 大学院医学系研究科, 技術専門員 (30397707)
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研究分担者 |
佐藤 真 大阪大学, 大学院連合小児発達学研究科, 教授 (10222019)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | von Economo細胞 / Fork細胞 / 島皮質 / 前帯状回 |
研究実績の概要 |
島皮質において、ヒトを含む一部の進化した霊長類の島皮質第5層には形態学的に特徴的な細胞(von Economo細胞、Fork細胞)が存在するとされ、自閉症や認知症などの疾患と関連が深く、機能的にも重要であるとの報告がなされている。一方、申請者は大脳皮質の形成の類似性から、マウスとより高次の動物の島皮質との間でも第5層神経細胞は共通性が高いと推測し、上記の特徴的な細胞の検索を重ねてきた。その結果、von Economo細胞に特徴的に発現するとされる分子の一部の発現細胞、および形態学的にFork細胞の特徴を有する細胞の存在をマウス島皮質において見い出した(Taniguchi, M et al., Plos One 2022)。そこで本研究ではこれらの細胞の回路網を神経細胞の全体像を可視化することで明らかにする。 初年度においては、申請者はNadphd染色法による新たな手法を導入して、島皮質・前帯状回におけるvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞について検討を行った。その結果、形態学的にvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有するNadphd陽性の細胞の存在を見い出した。前帯状回は、情動の形成に重要な役割を果たす大脳皮質であり、また島皮質から前帯状回に伸びる回路はPTSDとの関連性が高いとの報告もある。そこで、ストレスマウスを用いてこれらの細胞に変化が生じていないか免疫組織化学的手法を用いて検討を行った。その結果、ストレスマウスにおいてこれらの細胞の数が減少することを明らかにした。本研究課題を推進するにあたり、マウスに存在するvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞についての新たなアプローチの手法を確立できたことが大きい。今後、これらの細胞の回路網の全体像を明らかにしていく上で基本的な要件を達成したと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては、申請者はNOニューロンの染色法の1つであるNadphd染色法による新たな手法を導入して、島皮質・前帯状回におけるvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞について検討を行った。その結果、形態学的にvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有するNadphd陽性の細胞の存在を新たに見い出した。前帯状回は、情動の形成に重要な役割を果たす大脳皮質であり、また島皮質から前帯状回に伸びる回路はPTSDとの関連性が高いとの報告もある。そこで、ストレスマウスを用いてこれらの細胞に変化が生じていないか免疫組織化学的手法を用いて検討を行った。その結果Nadphd陽性細胞をストレス群とコントロール群で比較したところ、Nadphd陽性細胞の数に明確な減少が見られた。本研究課題を推進するにあたり、マウスに存在するvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞についての新たなアプローチの手法を確立することができた。今後、電子顕微鏡や免疫組織化学的手法を駆使して形態学的に検討を進め、病態や意志の変化などの行動と神経回路との関係について検討を進める。
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今後の研究の推進方策 |
初年度においては、島皮質・前帯状回におけるvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞について検討を行った。その結果、Fezf2陽性のFork様細胞に加えて、形態学的にvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有するNadphd陽性の細胞(NOニューロン)の存在を新たに見い出した。さらに、ストレスマウスを用いた実験によりこれらNadphd陽性のvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞の数に明確な減少が見られた。 今後、島皮質・前帯状回に存在するvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有する細胞の細胞プロフィール(抑制ニューロンや興奮性ニューロンなど)について電子顕微鏡や免疫組織化学的手法を駆使して形態学的に検討を進める。また、ストレス負荷マウスでこれらのニューロンが損失していることより島皮質・前帯状回におけるこれらのニューロンと認知および神経精神医学的障害と相関があるかどうかを検討し島皮質・前帯状回におけるvon Economo様細胞及びFork様細胞の役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
繰越理由)初年度においては、島皮質・前帯状回において、Fezf2陽性のFork様細胞に加えて、形態学的にvon Economo細胞及びFork細胞の特徴を有するNadphd陽性の細胞(NOニューロン)の存在を新たに見い出した。さらに、ストレスマウスを用いた実験によりこれら細胞の数が減少することを明らかにした。しかしながら、これらの研究を先行し行うことで、時間を要し、初年度より行う予定であったSingle neuron resolutionでの研究を行えなかった。以上のことが次年度使用額が生じた理由としてあげられる。但し、すでにベクター構築をはじめており次年度以降にこれらの実験を遂行する予定である。
使用計画)本年度は、繰越理由に記載した実験に加え、Single neuron resolutionでの研究を遂行していく予定である。その一歩としてFezf2陽性Fork様細胞への入力元とその機能を明らかとする。入力路の同定にあたっては、旧来の方法に加え、いわゆるpost側の細胞にCreを発現させ、入力細胞を改変狂犬病ウイルスベクターにて追う手法(Wickersham et al., Neuron, 2007)も導入し実施する。これらのマウスに対し、内臓刺激、味覚、ストレスなどを与え実験を行う。このことでFezf2陽性Fork様細胞の機能別の回路の解析を行う。
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