低酸素状態は様々な疾患や原因によって引き起こされる。低酸素状態では細胞機能が阻害され、生命活動の維持が困難になる。これまでの研究成果から、本来低酸素耐性を持たない生物に低酸素耐性を付与する化合物やこれに関与する脳神経核が明らかになってきた。そこで本研究において、低酸素状態での生存を可能とするメカニズムの解明を目指す。 令和5年度は、低酸素耐性の誘発に関与する脳神経核の解明を進めた。このために、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いて脳神経核に人工受容体を発現させることでDREADD (designer receptors exclusively activated by designer drugs)法を行い、神経核特異的に神経活動の人為的な活性化を行った。これによる低酸素耐性への影響を複数の神経核において解析した。この結果、低酸素耐性を高める脳神経核、ならびに低酸素感受性を高める脳神経核という逆方向に機能する神経核群が存在することが明らかとなった。また、低酸素耐性を高める脳神経核をAAVを用いてcaspase3発現させることで特異的に細胞除去した場合は、低酸素耐性を付与する化合物の効果が低下することも明らかになった。これら結果から、本研究で同定された脳神経核が低酸素耐性の誘発において重要な機能を果たす可能性が示唆された。さらに、マウス個体の体温や代謝レベルの低下量は低酸素耐性の強さと必ずしも相関しないことがわかってきており、脳を介した低酸素耐性の誘発機構の新たな特徴が解明されつつある。
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