研究課題/領域番号 |
23K06160
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
泉 安彦 神戸薬科大学, 薬学部, 講師 (60456837)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | Nrf2-ARE経路 / 抗炎症作用 / ミクログリア |
研究実績の概要 |
本研究の目標は、Keap1阻害薬の抗炎症作用機序の解明である。Keap1は転写因子Nrf2の抑制分子であり、Keap1阻害薬はNrf2の核内移行を促進し、抗酸化タンパク質の発現を誘導する。Keap1阻害薬の多くは、抗炎症作用を有するが、Nrf2が関与しない可能性がある。本研究では、Nrf2が関与しないKeap1阻害薬の抗炎症作用機序を解明することを目指す。本年度は、Keap1阻害薬が結合するタンパク質を同定するため、ビオチン化Keap1阻害薬の全合成を試み、部分的な合成に成功した。また、予備的な検討から、Toll様受容体からMAPK経路に関与するタンパク質が候補である可能性が高かった。そこで、interleukin-1 receptor-associated kinase-1(IRAK-1), TGF-beta activated kinase 1(TAK1), Tumor progression locus 2 (TPL2)のキナーゼ活性を検討したところ、Keap1阻害薬は、TAK1およびTPL2活性を抑制した。したがって、Keap1阻害薬は、Toll様受容体からMAPK経路に関与するキナーゼを直接阻害することで、抗炎症作用を示すことが示唆された。 また、本研究の第2の目標は、Keap1阻害薬の新たな疾患治療への応用である。Nrf2-ARE経路の活性化薬であるフマル酸ジメチルは、詳細な機序は不明だが、欧州で乾癬に適応がある。乾癬は、皮膚の炎症症状を伴い、皮膚の肥厚・紅斑・鱗屑を生じる疾患である。この病態形成にマクロファージの炎症性活性化が関与する。本年度は、マクロファージに対するKeap1阻害薬の抗炎症作用を検討した。マクロファージ系J774株化細胞および腹腔マクロファージにおいて炎症性サイトカイン発現を、Keap1阻害薬は濃度依存的に抑制した。さらに、その抑制効果は抗酸化物質の作用は強かった。そして、その機序としてIRAK-1には影響を与えず、MAPK経路の抑制が関与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビオチン化Keap1阻害薬の全合成は完遂できていないが、順調に進捗している。ビオチン化Keap1阻害薬が合成できれば、網羅的な検討が可能になり、さらなる進展が見込まれる。ビオチン化Keap1阻害薬の全合成の成否に関わらず、Keap1結合タンパクの候補を見出したことから、滞りなく進捗できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討から、Keap1阻害薬の直接的な標的タンパク質がTAK1およびTPL2である可能性が浮上した。実際、Keap1阻害薬がTAK1およびTPL2に結合するのか、どのアミノ酸に結合するのか、質量分析により明らかにする。引き続き、ビオチン化Keap1阻害薬の全合成を目指し、完成した際は、網羅的な解析を行い、Keap1阻害薬の新たな作用や副作用に繋がる標的を探索する。Keap1阻害薬が大量に合成できるようになれば、in vivo乾癬モデルへの適用が可能になり、さらに研究を推進することができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ビオチン化Keap1阻害薬の全合成費用を見積もっていたが、まだ完成しておらず、次年度使用額が生じた。本年度は、合成経路の確立のための小スケールであったが、合成できるようになれば、ある程度大スケールでの試薬消費(=支出)が予想される。 さらに、in vivo乾癬モデルでの検討に進むと、動物費用が増加することが見込まれる。
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