研究課題/領域番号 |
23K06634
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 美穂 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (80548470)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 長鎖非翻訳RNA / がん細胞 / 複製ストレス |
研究実績の概要 |
がん細胞では R-loop と呼ばれる RNA:DNA ハイブリッド構造が頻繁に形成される。また、さまざまながんで高発現を示す長鎖非翻訳RNA TUG1 は、R-loop を解消する重要な分子である。TUG1 を阻害すると、R-loop が増加し高頻度でDNA損傷を引きおこす。継続的な TUG1阻害は、DNA損傷にともなう修復エラーを起こし、ゲノム不安定性を誘導する。本研究では、TUG1 の阻害により ゲノム不安定性特にMSI を効率よく誘導する方法の確立と、その詳細な分子機構の解明を目的とする。 本年度は、TUG1 が R-loop を解消する分子メカニズムを解明するために、近年開発されたCARPID法を用いて、TUG1と相互作用するタンパク質をin vivoで架橋処理なしに同定した。2種類の膠芽腫細胞株を用いて実験を行ったところ、それぞれの細胞腫に特異的なタンパク質と、共通のタンパク質がそれぞれ同定された。この中には、これまでにTUG1と相互作用することを明らかになっているDHX9に加えて、複数の異なるRNA helicaseが含まれていた。また、興味深いことにDNA損傷修復にかかわるタンパク質も含まれていた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LncRNA TUG1はR-loopを解消し、DNAの複製ストレスから生じるDNA損傷を防ぐために必須の機能を持つ。TUG1と結合するタンパク質をがん細胞で網羅的に同定するために、Cas13を用いた手法を確立した。これまでの技術は、化学的またはUVによるRNAとタンパク質の架橋後に、その複合体を分離する手法が用いられてきた。しかし非特異的な結合も含めて同定されてしまうことや、生理学的に重要な相互作用が架橋によってマスクされてしまうという問題があった。そこでCRISPR技術を利用して目的のRNAに結合するタンパク質を生細胞内で同定するCRISPR-assisted RNA-protein interaction detection method (CAPID)法を行った。この手法はこれまでHEK293T細胞で確立されていたが、トランスフェクション効率の低いがん細胞にもこの手法を用いることに成功し、TUG1と相互作用するタンパク質を質量分析法により同定した。2種類の膠芽腫細胞株を用いて実験を行ったところ、それぞれの細胞腫に特異的なタンパク質と、共通のタンパク質がそれぞれ同定された。この中には、これまでにTUG1と相互作用することを明らかになっているDHX9に加えて、複数の異なるRNA helicaseが含まれていた。また、興味深いことにDNA損傷修復にかかわるタンパク質も含まれていた。
|
今後の研究の推進方策 |
同定されたそれぞれのRNA helicaseについて、TUG1との細胞内局在や結合様式について解析を行う。RNA FISHとRNA helicaseの抗体を用いた免疫染色を行い、超解像顕微鏡を用いて、一分子レベルで核内の局在を調べる。またCLIP-qPCRを行い、RNA helicaseがTUG1のどの部分と結合しているかを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Mass spectrometryを用いたタンパク質の同定で複数サンプルをまとめて解析することが可能になり、試薬代と解析費用の一部が不要になった。次年度使用額は研究をさらに推進させるために、高解像度でのイメージングを行うための試薬購入費用に充てる。
|