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2023 年度 実施状況報告書

悪玉サイトカインIL6を抗腫瘍サイトカインへと変換させる試み

研究課題

研究課題/領域番号 23K06723
研究機関東京理科大学

研究代表者

三瀬 節子  東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 助教 (00269052)

研究期間 (年度) 2023-04-01 – 2026-03-31
キーワード腫瘍免疫 / サイトカイン / 疲弊化T細胞 / IL-6 / エフェクター
研究実績の概要

IL-6のシグナルを負に制御するSOCS3をT細胞で欠損したマウス(SOCS3 cKOマウス)はIL-6の作用により強い抗腫瘍作用を示す。IL-6はもともと抗腫瘍免疫を抑えるように働くと言われているが、SOCS3を欠損したT細胞にはなぜか抗腫瘍作用を高めるように働く。この謎を解明するために以下の実験を行った。
野生型とSOCS3 cKOマウスの腫瘍内に浸潤してきたT細胞の性質を一細胞RNAseq(scRNAseq)によって明らかにした。これまでのFACS解析で明らかにしたように、SOCS3 cKOマウスの腫瘍内では制御性T細胞が減少し、エフェクター作用を示す疲弊化途上のCD8陽性T細胞が増えていた。疲弊化中の細胞を詳しく見ると、progenitor, intermediate, terminalの3つのクラスターに分かれるが、SOCS3欠損CD8T細胞では、エフェクター作用が強くなるintermediateの疲弊途上の細胞が特に増えていた。遺伝子発現を野生型と比較してみるとintermediateのクラスターの前段階のprogenitorのクラスターで最も多くの遺伝子に発現の違いがあり、軌道遺伝子発現解析を行うとprogenitorからintermediateに至る過程で、IFN反応性遺伝子が野生型の細胞より強く発現していた。
この違いがIL-6によってもたらされているかを明らかにするために、野生型あるいはSOCS3欠損型のCD8T細胞をin vitroでIL-6存在下で抗原刺激し、その遺伝子発現を比較した。scRNAseqの結果と同様に、SOCS3欠損型CD8T細胞はIL-6のin vitro刺激によってIFN反応性遺伝子の発現が強かった。
これらの結果から、SOCS3欠損型CD8T細胞はIL-6を受け取るとI型IFN刺激を受けたときのように反応することがわかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2023年度は、scRNAseqのデータをコンピューター解析することに多くの時間を費やしたが、SOCS3欠損型T細胞の性質に関して多くの情報を得ることができた。研究実績の概要に述べた違いのみならず、SOCS3欠損型CD8T細胞は野生型に比べ、幹細胞性を失いエフェクター分子の発現が高いエフェクター細胞に分化していたこと、制御性T細胞は野生型のものと比べ抑制性の遺伝子発現が低いこと、コンベンショナルなCD4T細胞もよりエフェクターの性質を持つものが多いことなども明らかにすることができた。
同時にIL-6の直接の作用を in vitroで解析することもできた。それによって腫瘍内のCD8T細胞の性質がIL-6の作用によるものであることを明らかにすることができた。

今後の研究の推進方策

2023年度に明らかにしたIL-6による野生型、SOCS3欠損型CD8T細胞の遺伝子発現の違いをさらに解析するとともに、IL-6が実際のCD8T細胞の表現系としてどのように現れてくるかを明らかにする。具体的には、CD8T細胞をIL-6存在下で抗原刺激した際のエフェクター細胞への分化の程度や、細胞障害性活性、エフェクター作用を左右するミトコンドリアの状態やエネルギー代謝の違いを、野生型とSOCS3欠損型と比較し、抗腫瘍効果を向上させている要因を明らかにする。

さらにヒトへの臨床応用を目指して、ヒトの末梢血T細胞からSOCS3欠損型のキメラ抗原受容体chmeric antigen receptor (CAR)-T細胞を樹立し、抗腫瘍効果を検証する。具体的にはヒトのB細胞白血病の抗原であるCD19特異的なCAR遺伝子をレトロウィルスで末梢血T細胞に導入し、Cas9タンパク質とSOCS3特異的なgRNAをエレクトロポレーションすることによって導入し、SOCS3欠損型CAR-T細胞を作製する。これをヒトのB細胞白血病細胞株を移入した超免疫不全であるNSGマウスに移入し、血中の白血病細胞数やマウスの生存日数によって抗腫瘍効果を検証する。

以上の研究を通し、SOCS3欠損型T細胞に対するIL-6の作用を明らかにし、ヒトの腫瘍治療への応用に繋げる道筋を作り上げる。

次年度使用額が生じた理由

2023年度は遺伝子発現解析の実験が多く、コンピューター上での解析が主であり、実験を多く行わなかったために、当初考えているより予算を必要としなかった。
2024年度はin vitroの実験が多く、その中で細胞の代謝を調べるためのフラックスアナライザーを用いた解析は、高価な消耗品を多く使うので、そのための経費として使うことを計画している。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] NR4a1/2 deletion promotes accumulation of TCF1+ stem-like precursors of exhausted CD8+ T cells in the tumor microenvironment2024

    • 著者名/発表者名
      Srirat Tanakorn、Hayakawa Taeko、Mise-Omata Setsuko、Nakagawara Kensuke、Ando Makoto、Shichino Shigeyuki、Ito Minako、Yoshimura Akihiko
    • 雑誌名

      Cell Reports

      巻: 43 ページ: 113898~113898

    • DOI

      10.1016/j.celrep.2024.113898

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] SOCS3 deletion in effector T?cells confers an anti-tumorigenic role of IL-6 to the pro-tumorigenic cytokine2023

    • 著者名/発表者名
      Mise-Omata Setsuko、Ando Makoto、Srirat Tanakorn、Nakagawara Kensuke、Hayakawa Taeko、Iizuka-Koga Mana、Nishimasu Hiroshi、Nureki Osamu、Ito Minako、Yoshimura Akihiko
    • 雑誌名

      Cell Reports

      巻: 42 ページ: 112940~112940

    • DOI

      10.1016/j.celrep.2023.112940

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Cellular and Humoral Immune Responses after Breakthrough Infection in Patients Undergoing Hemodialysis2023

    • 著者名/発表者名
      Toda Masataro、Yoshifuji Ayumi、Nakayama Tetsuo、Mise-Omata Setsuko、Oyama Emi、Uwamino Yoshifumi、Namkoong Ho、Komatsu Motoaki、Yoshimura Akihiko、Hasegawa Naoki、Kikuchi Kan、Ryuzaki Munekazu
    • 雑誌名

      Vaccines

      巻: 11 ページ: 1214~1214

    • DOI

      10.3390/vaccines11071214

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [備考] 慶應義塾大学プレスリリース

    • URL

      https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2023/8/17/28-144531/

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公開日: 2024-12-25  

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