研究課題/領域番号 |
23K08253
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河村 拓史 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (60839398)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | DDS / mRNA / 心不全 / 心筋再生 / ナノミセル / Lipid Nanoparticle / エクソソーム / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
近年増加傾向の心不全患者に対する再生医療が治療選択肢として期待されている。iPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)を用いた細胞移植治療により心機能が改善するメカニズムは、分泌されるエクソソームや蛋白などが主体であることがわかってきた。iPS-CMから抽出されたエクソソームを心不全モデルラットに投与することで心機能改善効果が得られることを証明したが、その詳細なメカニズムは不明であった。また、エクソソーム抽出のためにはiPS-CMの大量培養が必要であり、細胞治療と同様にコストがかかる上に、エクソソーム中には数百種類のmicroRNAや蛋白が含まれており、明確な有効成分が不明かつ製剤化した場合のロット間差が解消できないという問題点が判明した。そこで我々は治療の一般化に向けて、製剤として均一な人工エクソソームを作成することを目的に研究を開始した。 エクソソーム投与で心機能改善効果が得られた虚血性心筋症モデルラットの組織をRNA sequenceすると、投与後1週間までにHGF, IGF-1, PDGF-b, SDF-1, TGF-βが有意に上昇していることを証明した。我々は、その機序を再現するモダリティとしてmRNAに注目し、mRNAを人工エクソソームに内包させることとした。また、人工エクソソームのDrug delivery systemとして、Lipid Nanoparticleは投与部位での炎症惹起が避けられず不向きである一方、ナノミセルキャリアは、投与部位に炎症を起こさず、組織への浸透性に優れるとの特長を持つためこれを用いることとした。 2023年度に施行した実験として、[1]虚血性心筋症モデルマウスの作成、[2]Luciferase-mRNAナノミセル製剤の心臓発現確認実験、そして、[3]5因子mRNA内包ナノミセル製剤の急性心筋梗塞マウスへの投与を行い、現在結果解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に施行した実験として、[1]虚血性心筋症モデルマウスの作成、[2]Luciferase-mRNAナノミセル製剤の心臓発現確認実験、そして、[3]5因子mRNA内包ナノミセル製剤の急性心筋梗塞マウスへの投与を行った。 [1]:10週齢BL6マウスを全身麻酔の上挿管し、左開胸を行った後に左冠動脈を結紮することで心筋梗塞を作成した。作成後2週の心エコーで心機能の著明な低下(EF<45%)と、組織解析にて左室自由壁全体の線維化を認め、安定したモデル作成の確立を行った。[2]:mRNA内包ナノミセルが心臓で発現するかを心筋直接投与にて検証した。Luciferase-mRNA内包ナノミセル製剤を、上記と同様に挿管、左開胸、心筋梗塞作成した後に心筋直接投与した。投与後4時間と翌日から10日目までIVISにて評価を行った。蛋白発現は投与後1-2日で最大となり、10日間に渡り発現を認めることを確認した。Positive controlとしては下腿三頭筋に同量投与し、そちらも心臓と類似した発現量が見られた。[3]:5種類(HGF, IGF-1, SDF-1, TGF-β, PDGFb)のmRNA(各因子1ugずつ)を内包したナノミセルを急性心筋梗塞マウスに投与した。Luciferase-mRNAを1ug混合しておき、適切に心臓投与されているかをIVISで確認し、解析対象とした。この実験に関して現在効果解析中である。 2024年度は[4]の解析を進め、心機能改善効果が見られれば、組織学的評価、遺伝子学的評価、PET-CTで心筋血流評価を行うことでメカニズムを解析する予定である。心機能改善効果が得られない場合は、心筋梗塞後2週間経過した虚血性心筋症モデルマウスに対して5因子mRNAを投与し、効果を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は、心機能改善効果が得られる人工エクソソーム・次世代mRNA医薬品を開発し、ヒトを対象とした臨床治験を通し、臨床応用することである。mRNAによる心不全治療はさまざまな動物実験が行われており、心機能改善効果を示す研究も見られるが、実際にヒトにおいて心機能が改善した報告はまだない。近年心不全治療の進歩は目覚ましいが、現在でも薬物療法に抵抗する重症心不全が存在し、心移植・補助人工心臓の適応患者も限られるため、救命できない患者も多い。そのため、新規創薬モダリティに期待が寄せられている。今回の研究はその基礎データとなる。残りの2年間で達成すべき課題は、心機能改善効果が得られるmRNA因子の同定である。今回選定した5因子の中で、必須因子を同定し、その因子の適切な組み合わせを見つける必要がある。具体的には、5因子のmRNAから1つずつ因子を抜いた、4因子mRNAの製剤を作成 (5通りの組み合わせとなる) し、心不全モデルマウスに投与後に心機能を解析する。それにより、5因子の中でどの因子が重要かを同定する。最後にそのmRNA因子の組み合わせが5因子と同様の心機能改善効果があるかを心不全モデルマウスに投与し、メカニズム解析を行う。2023年度は順調にモデル作成、mRNAの投与予備実験と本実験の一部を施行でき、2023年度支給分の研究費は全て使用した。2024年度研究費では5因子mRNAの投与で心機能改善効果が得られるのか、得られた場合はそのメカニズムはどのようなものなのかを解析していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度使用額はほぼ使い切り、196円のみを残した。この分は翌年の研究費として、主に消耗品費として使用させていただきます。
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