研究課題/領域番号 |
23K08430
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
杉山 篤 東邦大学, 医学部, 教授 (60242632)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 低体温 / 致死性不整脈 / 薬物治療戦略 / QT間隔延長 / torsade de pointes |
研究実績の概要 |
2023年度は低体温療法に伴う致死性不整脈の発生回避に有望な薬物を探索するためのモデルの構築を試みた。心筋活動電位および心電図波形がヒトに類似するモルモットを用いて、体温低下および復温操作が生体位心に与える電気生理学的影響を評価した(n=10)。モルモットを正常体温の37℃から32℃の低体温状態にして、その後正常体温になるまで復温操作を行い、心電図指標の変化を観察した。体温低下により、心拍数の減少、PR間隔、QRS幅およびQT間隔の延長が認められたので、低体温は洞結節自動能を抑制し、房室結節および心室内伝導を遅延させ、心室再分極時間を延長すると考えられた。一方、復温操作により、心拍数、PR間隔およびQT間隔は初期値に回復したがQRS幅の延長は残存したので、低体温暴露による心室内伝導遅延が低体温誘発性不整脈の発生に特に関与すると考えられた。しかし、体温低下および復温操作だけでは致死性心室不整脈は発生しなかったので、低体温暴露は致死性不整脈発生に必要な基質(substrate)を形成するが誘因(trigger)を発生させないと推測した。そこで心室高頻度電気刺激をtriggerとして追加し不整脈発生の有無を評価したところ、体温低下前には観察されなかった心室細動が、体温が35℃以下になると誘発されるようになった。以上より、低体温暴露は生体位心の心室内伝導遅延および心室再分極遅延を介して致死性心室不整脈発生に必要なsubstrateを形成するが、triggerを誘発しないと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
麻酔モルモットを用いた2023年度の検討により、低体温暴露は生体位心の心室内伝導遅延および心室再分極遅延を介して致死性心室不整脈発生に必要なsubstrateを形成するが、triggerを誘発しないことが明らかになった。しかし、モルモットでは、低体温暴露だけでは致死性不整脈は自然発生しなかったので、低体温療法に伴う致死性不整脈発生回避に有望な薬物を探索するモデルとして不適切であることが判明した。以上の理由で2023年度に予定していた薬物の探索はまだ開始できていない。
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今後の研究の推進方策 |
モルモットは低体温療法に伴う致死性不整脈発生回避に有望な薬物を探索するモデルとして不適切であることが判明したので、非げっ歯類動物であるイヌを用いてモデルの構築を試みる。イヌの心臓はヒトに極めて類似する電気薬理学的反応を示すことが知られている。初年度に構築した低体温暴露のプロトコールを麻酔犬に応用し、低体温暴露による不整脈の発生あるいは不整脈の代替指標に及ぼす作用を定量評価する。適切なモデルが構築でき次第、低体温誘発性不整脈を回避または治療するための有効な薬物療法を探索する。
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