研究課題/領域番号 |
23K10889
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石本 憲司 大阪大学, 大学院薬学研究科, 招へい教員 (00572984)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ポリフェノール類 / エピガロカテキンガレート(EGCg) / 機能性食品素材 / 腸内細菌代謝物 / 体内動態評価 / アレルギー性鼻炎 / 安全性試験 |
研究実績の概要 |
健康長寿を願う人々の一つの対策として、健康食品の積極的な活用が挙げられる。一方で、健康食品の利用が進むにつれて、それが起因となる有害事象が増大している。その一番の要因は、「健康食品に含まれる機能性食品素材は豊富な食経験があるため、安心安全な成分である」と我々が盲目的に信じていることにある。健康食品であったとしても、医薬品のような科学的根拠を明確に示すことが重要と考えられる。 機能性食品素材であるポリフェノール類は、その効能を謳った数多くの商品が上市されている。一方で、ポリフェノール類はほぼ体内に吸収されないという事実があり、実際に有効性の実体が明確でない。言い換えると、ポリフェノール類の適切な利用法を理解できないままその商業利用の拡大が進んでいる。本研究では、生体内吸収されにくいポリフェノール類がどのような作用様式で薬理作用を発揮しているかを解明することで、ポリフェノール類を機能性食品素材として利用する際の科学的な根拠に基づいた情報を提供することを目指す。 本研究では、ポリフェノール類の一つである「エピガロカテキンガレート(EGCg)」をモデル化合物として選択し、 EGCg自体でなく、その腸内細菌代謝物が有効性を発揮していると仮説を立て検証する。EGCgは、その腸内細菌代謝物の存在が報告されていること、体内吸収率が0.1%程度であること、また申請者らの予備的な検討からEGCgの腸内細菌代謝物が薬理効果を示す情報を有するからである。具体的には、質量分析計で分析等を用いてEGCgの腸内細菌代謝物の同定する。さらにはその代謝物の薬理作用や体内動態、安全性を評価し、ポリフェノール類の適切な利用法を取得する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EGCgの腸内細菌代謝物は10種類以上報告されているが、これらは市販で手に入らないものが多く、また手に入る化合物は高価であり、動物実験での薬理評価に利用する量を確保するのが困難である。そこで、EGCgの代謝物をin vitroで作製することを試みた。まずラットから回収した糞便を嫌気的条件下で培養した菌液を調製した。これにEGCgを添加後、再び嫌気的条件で培養し、経時的に10日間EGCgの反応液を回収した。この反応液を質量分析計で解析したところ、サンプル回収初期に観察されていたクロマトグラム中のEGCgのピークは、経時的に減少した。一方で、回収時期が後期になるにつれて、EGCgのピーク時間とは異なった複数のピークを観察することができた。これらのことから、EGCgを由来とする代謝物を得ることができた。 次に薬理作用を有するEGCgの腸内細菌代謝物のスクリーニングに着手した。EGCgとは異なった新たなピークを有する画分が薬理効果を示すかどうかについて、EGCgの有効性が報告されているアレルギー性鼻炎抑制効果で評価した。まず、特徴的なピークを持つ3種類の画分をスケールを大きくして調製し、フィルター滅菌し、投与サンプルを得た。次に BALB/c マウスにモデル抗原としてオボアルブミン (OVA) を Alum アジュバントと共に腹腔内投与し、その後OVA を経鼻投与することにより鼻炎アレルギーモデルマウスを作製した。このモデルマウスに対して、EGCg代謝物の各画分を経口投与し、OVA の経鼻投与後にアレルギー症状の指標となるくしゃみ及び鼻掻きの回数を測定した。その結果、画分の一つがくしゃみ及び鼻掻きの回数を減少する傾向が観察された。これらの結果から、EGCg代謝物がアレルギー性鼻炎の抑制効果があることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
活性があった画分に関して、質量分析装置を用い、クロマトグラムの分子量やピーク時間等の情報を基に、文献情報と照合し、薬理作用をもつEGCg腸内細菌代謝物の候補を特定化する。また、活性画分大量調製後、スチレン-ジビニルベンゼン系合成吸着剤等を用いて分離・精製を試みる。 同時に、EGCg関連代謝物に関する体内動態評価系の構築を行う。具体的にはEGCgや取得可能なEGCg代謝物を標品とし、質量分析装置を用いて、血清中のEGCg等を定量的に解析できる検出系を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当研究室に既にある試薬や動物を有効活用して、経費を抑制した。 またサンプルの分析費は共同研究のため、必要がなかった。
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