研究課題/領域番号 |
23K12004
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
高橋 厚 (タカハシアダム) 東洋大学, 井上円了哲学センター, 客員研究員 (70817395)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | アヴェロエス / トマス・アクィナス / 神の存在証明 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、十三世紀末から十六世紀までの西欧の「自然哲学」がアラビア哲学の影響によってどのように成立・変容したのかという問いの解明を目的としている。2023年度は、研究計画に即して、特に十三世紀の神学者トマス・アクィナスの宇宙論を、十二世紀のアリストテレス主義者であるアヴェロエス(イブン・ルシュド)の著作の受容という観点から考察する作業をつづけた。これまでトマス・アクィナスのアヴェロエス受容については魂論、特に「知性単一説」に対するトマスによる論駁が中心的に論じられてきた。だが、それだけではなく自然哲学的な文脈においても、トマスはアヴェロエスを経由してアリストテレス主義を受容し、それを元に彼自身の神的摂理と自然の秩序に関する考えを展開したのだ。現在は、専門論文を国際的学術誌に投稿するために準備中である。また、アヴェロエスの De substantia orbis のテクストの校訂作業に向けて共同で研究を進めている。De sustantia orbis という著作は、スコラ自然哲学の展開を考える上でも最重要なテクストの一つであるにもかかわらず、これまできちんとした校訂テクストが出版されてこなかった。したがって、この研究は今後の中世自然哲学および宇宙論の考察に関しても大きな貢献になると考えている。この一年は、現存する写本の状況についてリストをより正確な状態に整えた上で、いくつかの代表的な写本の文字起こしを進めた。 これらの中世自然哲学の研究を、現代の新しい自然哲学の展開へと接合する試みも続けている。雑誌の『現代思想』に「神の存在は証明できるのか? 野生と野蛮の実在論」 という論考を寄稿した。そこでは現代の美学の誕生を、中世的な神的な秩序の観念からの脱却の問題として語ることになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、東洋大学での所属・身分が専任教員から井上円了哲学センターの客員研究員へと変わったため、特に図書資料の購入等で科研費からの出費が多くなり、写本の調査計画に多少の影響があった。また、アヴェロエスの De substantia orbis の校訂作業については、写本同士の相違が発見されたため、その確認作業に手間取った。他については概ね計画通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、ジャンドンのヨハネスの研究を進めると同時に、アヴェロエスの De substantia orbis の校訂作業についてもケルンのトマス研究所の研究員たちと共同で作業を進める。アヴェロエスの自然哲学の影響についてはフランスを中心に近年新たな研究も進んでいるので、それらと連携しつつヨハネスだけではなく、十三・十四世紀のスコラ学者において影響が見られないかを調査・研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
東洋大学の専任教員から井上円了哲学センターの客員研究員の立場に変更となったため、研究費の減額が生じ、それを補うために科研費の前倒しでの使用をお願いすることになった。
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