研究課題/領域番号 |
23K12084
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
孫 琳浄 九州大学, 人文科学研究院, 講師 (70845958)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 白話語彙 / 新編水滸画伝 |
研究実績の概要 |
令和5年度に実施した研究成果は大きく分けて、一、中国文学と日本近世文学それぞれにおける白話語彙の識別基準の再検討。二、『新編水滸画伝』に見られる白話語彙の利用状況及び馬琴の白話語彙理解実態の考察、に分けられる。 中国文学において白話語彙を研究する場合には、基本的に唐以降の文献を対象とするが、六朝期の漢訳仏典、志人小説、楽府詩の一部にも口頭語彙が含まれているため、これらの文献も視野に入れる必要があると思われる。一方、日本近世文学において白話語彙研究をする場合は、四大奇書や三言二拍で頻用される唐代史料・伝奇小説・敦煌変文などを初出とする語を含みつつも、主に白話文学作品を出典とする語彙をメインとすべきであると考えられる。 後者の識別基準に基づき『画伝』中の白話語彙を抽出し、その分布状況と特徴を考察すると、『画伝』に見られる白話語彙の利用率は後の巻ほど増加する一方であり、かつ、その利用は一字、二字の単語や熟語に止まらず、修飾語を伴う語にまで及ぶ。傍訓に関しては、意味解説のような注釈や俗語が当てられていることが明らかになった。 また『画伝』の執筆順に沿って、虚字「将」の翻訳の諸相及び馬琴の白話語彙理解の実態を検討すると、執筆初期の馬琴は意訳を中心に翻訳作業を進め、「将」の用法には全く触れていないが、途中から書き入れを参照しつつ学習し、完璧に理解したわけではないものの積極的に翻訳に生かすようになっていることが窺われる。だが彼は結局最後まで「将」の用法を把握しきれなかったと見える。翻訳の終盤になると、馬琴は原文の語彙を随意に分解するとともに、前後の文脈に適した和語を訓に当て、その語彙に本来存在しない意味を担わせようとしていることが推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
科研費を申請後、おおむね予定通りに研究調査、発表、論文化を進めたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
馬琴読本作品のうち、『水滸伝』関連作品は全14作品が認められる。『画伝』起稿以前には、『高尾船字文』『復讐月氷奇縁』『復讐奇談稚枝鳩』『四天王剿盗異録』の4作品があり、以後には『椿説弓張月』『朝夷巡嶋記』『八犬伝』『開巻驚奇侠客伝』『近世説美少年録』などの9作品がある。それぞれの作品から白話語彙を取り出し、『新編水滸画伝』の白話語彙データと照合すれば、『画伝』以前に使用されている語彙の性格・特徴と、それ以降のものとの差異が明らかになるのみならず、『画伝』を執筆することが、馬琴のそれ以降の創作に具体的にどのような影響を与えたのかも浮き彫りになると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な物品を購入する中で少額であるが次年度使用が生じた。次年度分と併せて必要な消耗品を購入する予定である。
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