研究課題/領域番号 |
23K12100
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研究機関 | 旭川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
安藤 陽平 旭川工業高等専門学校, 人文理数総合科, 助教 (70964724)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 安岡章太郎 / 第三の新人 / 戦後文学 / 「幕が下りてから」 / 姦通小説 / 原稿 / 草稿 / 書簡 |
研究実績の概要 |
本研究は、アジア・太平洋戦争後の日本文学において、「第三の新人」の代表格と目された作家・安岡章太郎の文学作品について、草稿・原稿類、書簡などの自筆資料を調査・分析することで、作品本文の生成過程を明らかにしようとするものである。2023年度は、今回の研究課題で対象とした資料群の調査・撮影に加え、それらに対する分析を踏まえた研究発表を1件おこなうことができた。 23年8月に日本近代文学館、神奈川近代文学館へ赴き、資料調査および撮影をおこなった。日本近代文学館では、安岡章太郎の中期の代表作である「月は東に」の改稿に際して書かれた原稿用紙、書簡を調査した。改稿は単行本版本文と岩波全集版本文を比較することでも明らかにできるが、見せ消ち等の公刊された本文には存在しない情報を得ることができたのは成果といえる。神奈川近代文学館では、同じく安岡の中期の代表作「幕が下りてから」の草稿、「月は東に」の改稿手入れ図書、そして両作と同時期に執筆されたと思しき草稿を、安岡著作権継承者の許可を得て撮影した。この調査出張で、申請時に調査を計画していた資料の多くを調査・撮影することができた。 出張終了後は、研究の効率性を高めるため、まず「幕が下りてから」草稿の文字起こしをおこなった。その作業は、必然的に草稿と刊行版本文の比較を促すものであったが、特に刊行版本文に対する考察を深めることにつながった。その考察は、北海道教育大学旭川校が主催した国語国文学会にて口頭発表した(2023年11月、於:北海道教育大学旭川校)。現在は、発表内容を論文としてまとめる作業に取り組んでいる段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、2年間の研究計画を、2023年度に資料調査・撮影と分析、24年度にその成果発表として割り当てている。23年度は、本研究計画で予定していた資料の多くを調査・撮影することができた。加えて、各文学館での調査後に文字起こしをおこない、草稿・原稿類と刊行版本文が比較可能な研究状況を構築することができた。特に「幕が下りてから」については、草稿の文字起こしをする過程で必然的に刊行版との比較検討が促され、先行研究とは異なる視点を着想するにいたった。その視点にもとづいた作品考察を口頭発表し、成果をあげることができた。報告内容は、現在論文としてまとめている最中であり、完成次第学術雑誌に投稿する予定である。 ただし、調査できた資料は予定していたもののすべてではない。日本近代文学館、神奈川近代文学館それぞれに調査予定の資料を残している状況である。それは、23年度に2度予定していた資料調査が、1度のみにとどまったことに原因がある。研究計画遂行に大きく支障をきたす遅れではなく、24年度に再度資料調査をおこない、不足分を補完することが可能と判断している。 以上のように、すべてを計画通りに進められているとは言えないが、全体としてはおおむね順調な進展を見せていると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、23年度中に、今回の研究計画で対象とした資料群の多くを調査・撮影することができた。資料分析についても、草稿と刊行版本文の比較はおおむね順調に進展しているといえる。 そこで今後の研究では、まず現在執筆中の「幕が下りてから」論を完成させ、学術雑誌に投稿する。同論は23年11月におこなった口頭発表を基にしたものであり、本研究計画において重要な成果となるものである。 次に、調査・撮影した資料を参照しつつ、「月は東に」の分析作業を進めていく。同作についても、必要となる資料の調査・撮影はおおむね完了している。現在は、「幕が下りてから」論の執筆と同時並行で構想を練っている段階であるが、改稿箇所の比較検討が有効であるという手応えを得ている。そのため、今後も現在の手法で研究を進めていく。 また、予定したものの未だ調査できていない資料が数点残っている。これについては、24年度夏に再度資料調査を計画しており、そこで不足分の補完を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、2回予定していた資料調査のための出張を1回しかおこなうことができなかった点にある。この未実施に終わった資料調査は、検討の結果24年度におこなうこととしたため、23年度に使用できなかった金額をその際の旅費・撮影費として使用する計画である。
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