研究課題/領域番号 |
23K13486
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 拓郎 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (00943614)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 古代ローマ建築 / レーザースキャニング / ローマンコンクリート / ヴォールト / 型枠 |
研究実績の概要 |
2023年度は、当初の計画通りオスティア(劇場基礎)、ポンペイ(船乗りの家、エルコラーノ門外の店舗群、モザイク柱の家)、ヘルクラネウム(アリスティデスの家、海岸沿いの円筒ヴォールト群あるいは舟屋)にて、事前に確認されていたヴォールト架構の型枠の転写をレーザー実測した。その他、当初計画に含まれていなかったが、オスティアのカピトリウム基壇内部、紀元2世紀半ばあるいはマクセンティウス(在位306-312年)による建造とされるローマ郊外のカファレッラの聖ウルバーノ教会、紀元271-275年建造のアウレリアヌス城壁の塔及び門(アシナリア門-サンタ・クローチェ・イン・ジェルサレンメ教会の区間)においてヴォールト架構の型枠の転写が確認され、オスティア考古学公園あるいはローマ市文化財監督局を通じた手続きのもとこれらをレーザー実測した。2023年度は得られたレーザー実測の処理を行い、2024年度より当該データの分析を開始する予定である。 研究成果について、ATINER(アテネ教育研究研究所)が開催する建築に関する国際会議にてオスティアの交差ヴォールトに関する報告を行なった。それまでの交差ヴォールトやパビリオンヴォールトといった類型による理解ではなく、オスティアの事例に限定して、増改築にて交差ヴォールトが建造される例や高層の建造物でのヴォールトの使用例を提示し、三階層以上の建造物における地上階での交差ヴォールト使用について論じた。また、ヘルクラネウムのアリスティデスの家について、円筒ヴォールトのモルタルへの模りから得られた型枠の復元モデルの板幅を計測し、統計データとして分析した結果をエルコラーノ考古学公園に報告した。この報告では、各ヴォールトの板幅のヒストグラムに正規性が認められ、板幅にそれぞれ目標とする値が存在した可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の現地調査段階では、古代ローマ帝政初期から4世紀ごろまでの建造物のレーザー実測データの収集を目指しており、古代ローマ帝政初期については住居あるいは店舗(ポンペイ[船乗りの家、エルコラーノ門外の店舗群、モザイク柱の家]、ヘルクラネウム[アリスティデスの家])、公共建築物(オスティア[劇場基礎])、人工地盤(ヘルクラネウム[海岸沿いの円筒ヴォールト群あるいは舟屋])の現存例が収集された。2世紀についてはオスティアを主な参照元とし、2023年度までに研究代表者が収集してきたレーザー実測データの他、2024年度にオスティアのマリーナ門浴場の実測データを新たに収集する予定である。3世紀についてはアウレリアヌス城壁(2023年度はアシナリア門-サンタ・クローチェ・イン・ジェルサレンメ教会間の城壁、塔、通路、及び門)のレーザー実測データを収集し、2024年度に実測範囲を拡大予定である。 2023年度に予定していたゴルディアーニ霊廟(305年建造)の実測データ収集(調査許可申請は2023年に受理済)が、大規模修復遅延のために2024年4月現在実測調査できない状況にあり、また、コロッセオ外廊下の交差ヴォールト(217年の火災による修復か)の実測データ収集は現時点で踏査にとどまっている。一方で、ポンペイやヘルクラネウムにおけるモルタルへの型枠模りの保存状態が想定以上に良好であったこと、また、計画段階では情報量に欠いていたローマでの遺構について、当該区間でのアウレリアヌス城壁の塔と門(および一部の通路)にて型枠模りが確認され、今後も同様に確認される見込みがあることを勘案し、順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度までに収集したレーザー実測データの分析を進めるとともに、ポンペイとヘルクラネウムにおける踏査、オスティアのマリーナ門浴場のレーザー実測、アウレリアヌス城壁におけるレーザー実測データの拡充を進める。ゴルディアーニ霊廟のレーザー実測データ収集については修復作業完了を待つより他はないが、この霊廟の実測調査を経なければコロッセオのレーザー実測データ収集の準備に移れず、いずれも自己解決できない課題である。 モルタルへの型枠模りについて、計画当初想定されていた、型枠同士の隙間にモルタルが入り込むことによって、モルタルの板の模り同士の間に凸部が形成される特徴に加え、新たに、板の模り同士の間に凹部(あるいは目地程度の隙間)が形成される特徴が確認されてきており、事例を拡充した上で分析を進める。また、金属製の帯を巻いた板によって判別可能な近代の型板が模られた類似事例がオスティアとアウレリアヌス城壁の双方で確認され、技術的な観点からの報告の準備を進める。アウレリアヌス城壁については、近代までに幾度と修復の手が加わってきており、対象とする遺構が古代ローマに帰属するものかどうか、慎重に判断していく必要がある。
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備考 |
Point clouds of Ostia antica are courtesy of Parco archeologico di Ostia antica and KYUSHU UNIVERSITY. Point clouds of Heculaneum are courtesy of Parco archeologico di Ercolano and KYUSHU UNIVERSITY.
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