研究課題/領域番号 |
23K14239
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
目黒 史也 筑波大学, プレシジョン・メディスン開発研究センター, 研究員 (90935347)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 前上顎骨 / 上顎骨 / 鼻軟骨 / コウモリ / 口蓋 |
研究実績の概要 |
令和5年度は予定していたコウモリ3種の組織学的解析を進め,それぞれの胎子の器官形成期についてAzan染色を行った.さらに組織染色像から三次元再構築を行うことによって,発生に伴う前上顎骨,上顎骨,及び周囲軟組織の形態学的な変化の詳細を明らかにすることができた.コウモリの顎顔面形態についてはこれまでもいくつかの報告があるが,軟組織を含む形態変化を種間で比較した報告は殆どなく,多様な顎顔面形態の進化的機序を解明する基盤的知見として重要な結果が得られた.また,コウモリの上顎に形成される骨間の裂隙について,発生段階での変化を確認した結果,これらの裂隙が骨形成初期から認められ,また周囲の鼻軟骨や上皮構造と協調して形成されることが明らかとなった.当初の計画では,裂隙形成部位の同定が課題となっていたが,R5年度の結果からこれらの裂隙は鼻軟骨の形成によって大きく影響されること,また同じ骨の裂隙であっても種によって裂部位の形成過程とその周囲組織構造が全く異なることが判明した.以上の研究結果はR6年度初頭に論文として報告を予定している. また,全てのコウモリ種について,R5年度4月から6月に改めて捕獲作業を行い,組織学的解析及び翌年度以降の分子生物学的解析に利用可能なサンプルを確保することができた. 当初の計画には口蓋を形成する発生原基の遺伝子発現解析が盛り込まれていたが,R5年度内に得られた結果から発生原基間の癒合には形態的な差が認められないと判断し,本解析を行う発生時期をより骨化が進んだ発生後期に変更,R5年度はRNA抽出手法の検討を進めることとした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コウモリ3種の胎子について,2つの発生段階(器官形成期前期・後期)で前上顎骨,上顎骨,周囲軟骨の形態学的データの収集が完了した.これらのデータを比較した内容について論文を作成し,すでに投稿準備済みである.資料収集に際し,予定通り研究室内ですでに確保されていたサンプル群を使用したため,当該年度の解析には新たにサンプルを捕獲する必要がなく円滑に作業が進行した.予定されていたサンプリングもトラブル無く進行し,十分なサンプルを確保することができた.当初予定されていたRNA抽出と遺伝子発現解析については,組織学的解析から予定していた発生段階では不適当であることが判明し,時期の再検討と実施方法の検討のため当該年度内での実施は延期した.
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今後の研究の推進方策 |
R5年の研究結果から,コウモリ顔面の前上顎骨間,あるいは前上顎骨と上顎骨の間に認められる骨性の裂隙には鼻軟骨の形成が密接に関わっていることが示唆された.これらの関係はこれまでコウモリ種間で比較された例が無く,種数を増やしてより信頼度の高い結果にしていくことが必要と思われる.現時点では,これまで対象とした3種に加えて,3種のコウモリ,及び外群としてマウスあるいはスンクスを用いることを検討している.上記追加種については,R5年度と同様に組織学的な染色による構造の可視化と三次元再構築を行うことで,発生に伴う形態変化過程を明らかにする.加えてR5年度に得られた三種のコウモリの結果と比較を行い,形態的変化の類似性及び相違性から,顎顔面における骨の裂隙形成に最もクリティカルな発生段階や関連する構造について検証を行う.合わせて,ヒト口唇口蓋裂患者の形態学的な知見収集を行い,コウモリモデルの応用可能性について検討を進める予定である. 予定されていた遺伝子発現解析については、R6年度内に実施する種,発生段階,と試料確保のための技術的な検討を行い,方針を決定したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
作業が順調に進行し,作業補助のために予定していた人件費,謝金が必要で無くなったため,当該予算として確保していた分が余る結果となった.一方R6年度には当初の計画よりも使用するサンプル数が大幅に増えることが予想され,作業に伴う消耗品費への支出が増大する可能性が高いことから,余剰分の予算についてはこれらを補填する目的で使用する計画である.
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