研究実績の概要 |
胎内環境が児の将来の生活習慣病リスクと関連する可能性が1980年代から提唱されてきた(Barker仮説、DOHaD仮説)。23,316名の妊婦を対象に9か国で2000年から実施された前向き観察研究;HAPO研究によって、母親の妊娠中の血糖値が高いと、胎児の過成長を促進し、将来高率に肥満や糖尿病を発症することが示された。肩甲難産や新生児低血糖リスクの低減など周産期アウトカムの改善という観点だけでなく、次世代の糖尿病に対する先制医療として、妊娠中の厳格な血糖管理が重要であることが周知された。これを受けて、全妊婦に対して妊娠中の糖代謝異常(妊娠糖尿病)のスクリーニング検査を実施することが各国ガイドラインで推奨された。妊娠糖尿病と診断された女性は、出産まで厳格な血糖管理を行い、産後も糖尿病発症高リスク者としてフォローされる。 一方で、塩酸リトドリン(β2刺激薬)は、母体高血糖を助長し新生児低血糖を増加させるなど、母児の血糖に短期的に影響する可能性が指摘されているにも関わらず、中長期的な影響は検討されないまま、切迫早産に対して高容量・長期間投与が広く行われている。2003年-2005年に国立成育医療研究センターで出産した母児1550名を追跡して観察する前向きコホート研究[T-CHILD研究]の参加者のうち、94名が妊娠中に塩酸リトドリンを使用していた。2023年には母児の18-20年目の追跡調査を実施予定である。本研究ではこのコホートの解析を行い、高容量β2刺激薬への胎内暴露が、出生から児が成人するまでに及ぼす影響を検証する。
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