研究課題
ニホンウナギは繁殖のため,東アジアの成育場から熱帯外洋域の産卵場へ向けて,約3,000kmの産卵回遊を行う.先行研究により,本種は産卵回遊の過程で生殖腺の発達(配偶子形成)を進めることが明らかとなっている.しかし,その形成を制御する環境刺激やホルモンの分泌過程などの機構は全く分かっていない. 申請者らは,本種の海洋における産卵回遊の行動追跡実験(バイオロギング)の結果に基づき,「本種の産卵回遊中に示す日周鉛直移動によって経験する水温と光の日内変動が本種の配偶子形成に関与する」との仮説を立てた.しかし,この仮説を実証した研究は未だない.そこで本研究の目的は,バイオロギングで得られた天然の生態情報に基づいて飼育環境条件(水温,光,日長)を制御し,6ヶ月間の長期飼育実験を行うことによって本種の配偶子形成機構を解明することである.本研究の1年目の実施計画として,まずは飼育実験装置の試運転や微調整およびラボの設置(島根県江津市に設置するトンネルラボ)を行う予定とした.しかしながら,研究の開始が秋からであり,半年間で上記の実験計画のすべてを実行することができなかった.ただし,ニホンウナギおよび他種の産卵回遊行動についての比較やその行動意義についての検討をすることができた.
4: 遅れている
本研究の1年目の実施計画として,まずは2023年9月から2024年の3月まで飼育実験装置の試運転や微調整(山陽空調工業株式会社:広島県)および島根県江津市でのトンネルラボの開設と飼育実験装置の設置を目指した.その結果,トンネルの借用およびラボ設置の契約,また,飼育実験装置の設計図の詳細な検討までは進むことができた.この研究の基礎となるウナギ属魚類の産卵回遊行動である日周鉛直移動を既知の結果より,さらに検討することができた.例えば,産卵回遊距離がウナギ属魚類の中でも最も短いセレベスウナギの産卵回遊行動と,長距離回遊を行うニホンウナギを比較すると,日周鉛直移動の上限の水温差異が両種では異なり,それがそれぞれの成熟期間を規定するのではないかとの新たな仮説を考えることができた.また,低水温を経験したニホンウナギは,既報個体よりも浅い水深を遊泳する傾向が認められ,この結果より、光および水温環境の複合的な要因に基づいて産卵回遊中のウナギが遊泳水深を決定するためのモデルを得ることができた.これらの仮説やモデルは本研究に必須と考える.
2024年の秋までにトンネルラボの開設と飼育実験装置の稼働準備を行う.次に本研究の材料となる河川をくだりはじめた天然ウナギもしくは養殖にて銀化してきたニホンウナギを2024年の12月までには漁業者もしくは養殖業者から購入する.飼育実験には成熟に関連した体色や眼径など外部形態による銀化インデックスに基づいたS2段階の個体を使用し,埋め込み式電子標識(PITタグ)を用いて個体識別を行う.本種の配偶子形成に関与する環境要因は水温の日内変動と月周期変動であるとの仮説より,これらを操作する6ヶ月間の長期飼育実験をトンネルラボにて2025年1月から6月まで実施する.この1回目の飼育実験では水温変化のみに着目する予定である.
実験開始の半年間内で,島根県江津市に設置する予定だったトンネルラボを開設できなかった.また,そこで行う飼育実験装置の試運転や微調整もできなかった.よって,今年度の予算を予定通り,使用することができなかった.2024年度はトンネルラボを開設し,2025年1月より6ヶ月間の長期飼育実験を実施し,今年度と次年度の予算を使用する.
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Cybium
巻: 48 ページ: 5-33
10.26028/cybium/2023-045
Zoological Studies
巻: 62 ページ: 46
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