研究実績の概要 |
現生生命における最小の自己複製プロセスは「自律的セントラルドグマ」である。自律的 セントラルドグマは、転写・翻訳・DNA複製・リボソーム自己複製を、自らにコードされる情報に基づいて実行し、自己を複製するプロセスである。本研究では、生きているとは何 か?という問いへの解答を目指し、自律的セントラルドグマの試験管内再構成を目指す。 自律的セントラルドグマを起動するためには、転写・翻訳・DNA複製・リボソーム自己複製に関連する約200種の遺伝子を適切なバランスで発現させる必要がある。このように多数の遺伝子を適切に発現可能なシステムを構築するためには、ある反応条件における発現量を正確に定量し、その結果をフィードバックして、反応系を最適化するための仕組みが必要となる。申請者はこれまでの研究において、高い感度と同定率を示す次世代プロテオミクス・メタボロミクスを開発してきた(J. Biosci. Bioeng., 2019; mBio, 2020; Nat. Commun., 2020; PNAS, 2020)。これらの技術を応用し、Orbitrap型質量分析器によるパラレルリアクションモニタリングを開発することで、自律的セントラルドグマ関連因子を一斉に定量可能とするアッセイ系を構築しようと試みた。本年度は、モデルとして選択した26種類のセントラルドグマ関連タンパク質を一回の分析で定量可能な方法論を開発した。さらに、本手法を応用することで、無細胞転写翻訳系において多数の遺伝子の発現プロファイルを簡便に調整できることを明らかにした。本手法の適用範囲を他のセントラルドグマ関連因子に拡大することで、自己遺伝子発現バランスの最適化の試みが加速されることが期待される。
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