研究課題/領域番号 |
23K18239
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野村 紀通 京都大学, 医学研究科, 准教授 (10314246)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | テトラスパニン / がん転移・悪性化進展 / 仮足形成 / クライオ電子顕微鏡単粒子解析 / クライオ電子線トモグラフィー解析 |
研究実績の概要 |
①大腸がん細胞の転移・悪性化進展に関与するヒトテトラスパニンTM4SF1を対象として、細胞外ドメイン表面の立体構造を認識・結合する複数株のモノクローナル抗体YN5848を取得した。 ②取得した抗TM4SF1抗体について、大腸がんオルガノイドを用いた機能性評価を実施した。悪性化大腸がん細胞オルガノイド(AKTP細胞)の培養にYN5848抗体IgG精製品を添加して短時間インキュベート後、NSGマウス(免疫不全マウス)脾臓に移植した。2週間後にマウスの肝臓および脾臓を摘出し肝転移巣の形成を定量化した。抗体を投与した転移巣では、著しい線維化が観察された。またこれらの抗体投与マウスでは肝臓全体に占める転移巣面積の相対比の割合が対照群に比べて有意に大きかったため、これらの抗体は大腸がん転移を促進する機能性抗体であると結論した。興味深いことに、これらの抗体をin vitroでのAKTP細胞培養に添加すると遊走性仮足状の突起構造をもつオルガノイドの出現頻度が有意に多いことが確認された。この結果は、テトラスパニンAを介してがん転移・悪性化進展が起こる新規のメカニズムがあることを示すものである。 ③上記の現象の分子機構を構造生物学的に解明するため、TM4SF1-YN5848抗体複合体のクライオ電子顕微鏡単粒子解析 (cryo-EM SPA)を進めた。対照として、がん転移促進機能が無い抗TM4SF1抗体YN5822についても同様の解析を行った。データ解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス生体内にこの新規機能性モノクローナル抗体を投与することにより、大腸がんの転移・悪性化進展の現象を高効率で人為誘導し再現可能であることを見出した。また、in vitroでの大腸がんオルガノイド細胞の増殖実験において、当該抗体を投与して培養したときのみがん細胞に遊走性仮足状の突起構造が高頻度で出現することが確認された。本現象はがん転移・悪性化進展過程における初期細胞変容の重要なモデルとなる。当該機能性抗体とTM4SF1の複合体についてクライオ電子顕微鏡単粒子解析にも着手しており、概ね当初計画に沿った進捗状況であるので、本年度の目標は概ね達成できていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
①TM4SF1-YN5848抗体複合体のクライオ電子顕微鏡単粒子解析 (cryo-EM SPA)を完了する。対照として、がん転移促進機能が無い抗TM4SF1抗体YN5822についても同様の解析を行い、構造比較によりTM4SF1のコンフォメーション変化を明らかにする。 ② DDR1-TM4SF1-YN5848抗体の三者複合体のcryo-EM SPAを実施し、抗体結合によるTM4SF1構造変化がDDR1との複合体形成をどのように促進しているかを構造学的に解明する。がん転移抑制の新規創薬標的としてDDR1-TM4SF1相互作用界面の3D構造を提唱する。 ③TM4SF1のクライオ電子線トモグラフィー解析:仮説「YN5848抗体結合によりTM4SF1が自己集合し、脂質膜の曲率が変化するために細胞膜形態変化を促し、仮足が形成される」を検証するため、抗体添加後さまざまな時間において電子顕微鏡グリッド上で培養した悪性化進展がん細胞を用いてクライオ電子線トモグラフィー解析 (cryo-ET)を実施する。転移巣由来がん細胞の仮足のcryo-ET解析も行う。TM4SF1の局在と細胞膜形態変化及び仮足形成の相関をタイムラプスイメージングにより明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)次年度使用額が生じた理由 「がん転移促進作用をもつ機能性抗体YN5848抗体がTM4SF1に結合することにより、TM4SF1自身のアロステリック構造変化・オリゴマー形成が誘発され、その結果として結合パートナーであるDDR1シグナルが増強する」という仮説を検証するため、TM4SF1-YN5848抗体複合体のクライオ電子顕微鏡単粒子解析を2024年2~3月ごろに予定していた。しかしながら、解析に適したサンプルを調製するための予備実験が予想以上に時間がかかり、良好なサンプルを作製するのが当初予定より遅延して2024年3月中旬となってしまった。東京大学医学系研究科に設置されている加速電圧300kVのクライオ電子顕微鏡のマシンタイムを確保するのが2024年4月以降となったため、その実験に必要な旅費および装置利用料として確保していた分の助成金は2023年度内には使用しなかった。以上のような理由により次年度使用額が生じた。 (2)翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画 この次年度使用額は2024年度4~5月ごろに東京大学医学系研究科でのクライオ電子顕微鏡実験を行うための旅費および装置利用料として使用する予定である。このような軽微な計画変更を行ったとしても、全体としては当初研究計画を実現し、目標を達成できる見込みである。
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