研究課題/領域番号 |
20H01662
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 愛知淑徳大学 |
研究代表者 |
白石 淑江 愛知淑徳大学, 愛知淑徳大学, 客員研究員 (10154361)
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研究分担者 |
石黒 広昭 立教大学, 文学部, 教授 (00232281)
浅井 幸子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (30361596)
内田 祥子 高崎健康福祉大学, 人間発達学部, 准教授 (60461696)
井上 知香 愛知淑徳大学, 福祉貢献学部, 講師 (80710540)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 子どもの声を聴く / 子どもの権利 / ドキュメンテーション / 保育実践 / レッジョ・エミリア |
研究実績の概要 |
本研究は、「ドキュメンテーション」と呼ばれるレッジョ・エミリアの保育記録の営みに着目し、子どもの「意見表明権(聴かれる権利)」を保障する保育実践理論を探究することを目的とした5年間の研究である。3年目の2022年度は以下のような海外調査、国内調査を実施した。 【海外調査】内田と白石は、レッジョ・エミリアの幼児教育の影響を受けたスウェーデンのストックホルム市及び近隣都市の就学前学校5校を視察した。このうち内田は、多様性教育がどのように展開されているのかを視察するとともに、背後にある理念やドキュメンテーションの活用について教師から聞き取りを行った。白石は国の重点目標とされている持続可能性の教育に関するプロジェクトやそこでのドキュメンテーションの機能について聞き取りを行った。また、スウェーデンのペダゴジスタを講師として、実践者と科研チーム合同のオンラインセミナーを2回開催し、協力園が提供する実践例を資料として、教育ドキュメンテーションにおけるリフレクションについて研修した。 【国内調査】実践者との共同研究を継続し、その成果の一部を2022年5月に日本保育学会第75回大会自主シンポジウムで報告した。テーマは「子どもの表現とドキュメンテーション:子どもは粘土という言語をどう使うか?」であり、参加者は科研メンバーと協力園の保育者、芸術家(指定討論者)である。内容は、協力園での粘土を用いた実践例の報告、及び日本における粘土活動の特徴やスウェーデンの粘土活動の考え方についての報告を行い、これを受けて、子どもたちが粘土をどのように使い、何を経験しているのか、また、粘土と関わるプロセスや作品が子どもの探究の言語としてどのように機能するのかなどについて議論した。これにより、ドキュメンテーションを通して多様な視点からの考察が可能になることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による調査の遅れを取り戻しつつあるが、予定された計画内容がまだ一部実施できていない状況にある。 【海外調査】内田、白石は、2023年2月にスウェーデンの就学前学校5校を視察し、各自の研究テーマに沿って聞き取り調査を行うことができた。井上は、昨年に引き続き、レッジョチルドレン主催の保育者の専門性の発達、ドキュメンテーションに関連するテーマのウェビナーに参加した。なお、石黒は、本年度、海外調査を予定していたが、訪問希望先の都合等により渡航できなかった。 科研チーム全体としては、スウェーデンのペダゴジスタを講師としたドキュメンテーション研究会を協力園と合同で2回開催し、日本におけるドキュメンテーション実践の課題であったリフレクションの実際について理解を深め、実践的研究の前進につながった。 【国内調査】各研究分担に基づき、それぞれの研究計画に沿って概ね順調に実施することができた。浅井は、協力園の園内研修で、アトリエ活動においてドキュメンテーションを用い、子どもの声を聴きながら探求を深めるやり方を模索した。石黒は、造形作家とともに、美的リテラシーを深める活動の在り方について検討した。井上は、園内研修において、保育者同士が子どもの姿や保育について声を交わし合う場を醸成していく過程に共に参加した。園を越えた私的研究会も開催した。内田は、文化的に多様な背景をもつ子どもたちを対象としたワークショップ実践を展開するために、プロの音楽家による保育者を志す学生を対象としたファシリテーター養成研修を実施するとともに、研修を受けた学生と共に保育施設でワークショップを企画実施した。白石は、協力園を定期的に訪問し、ドキュメンテーションによるプロジェクト型の保育実践を観察するとともに、保育者のミーティングに参加して実践研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、海外調査、国内調査の成果を総合し、日本におけるドキュメンテーションによる「子どもの声を聴く」保育実践の基本モデルの検討を進める。 以下は、各研究分担の予定である。 【海外調査】浅井は、レッジョチルドレンのウェビナーで得た知見と、文献調査を通して得た知見を組み合わせて、ドキュメンテーションについての理解を深める。井上も、これまで参加したウェビナーなどで得た知見も踏まえながら、国内外の省察の概念について、文献を通した整理・検討を行う。内田は、2022年度に行ったスウェーデンのストックホルム市と近隣都市にある就学前学校の視察内容を報告書にまとめる。白石もスウェーデン調査の内容をまとめるとともに、ドキュメンテーションによる子どもと保育者の対話について理解を深める。 【国内調査】浅井は、引き続き園内研修を行い、アトリエ活動においてドキュメンテーションを使用するやり方を深める。石黒は、pedagogical documentationを用いた就学前学習の研究者を招聘した国際シンポジウムを共催する。また、国内の複数の就学前施設を訪問し、実践者も交えて本科研に関わる研究討議を実施するとともに、幼児を対象としてマルチモーダルな体験を可能とするワークショップを開催し、科学的リテラシーと美的リテラシーの学習過程を研究する。井上は、これまでの継続として園内研修に参加し、保育者が声を交わす場を保育者らと共に醸成していく。また園を超えた保育者らの私的研究会の実施を予定している。内田は、スウェーデンの就学前学校で展開されていた多様性の教育実践も参考にし、プロの音楽家と協働しながら、表現活動を中心に据えたワークショップを外国籍の子どもが通う保育施設で企画実施する。また実践の理論化を進める。白石は、協力園の訪問を継続し、プロジェクト型保育実践における子どもと保育者の対話に着目して調査する。
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