研究課題/領域番号 |
21H00520
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
久冨木原 玲 愛知県立大学, 公私立大学の部局等, 学長 (10209413)
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研究分担者 |
生田 慶穂 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (00846230)
前島 志保 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10535173)
白石 佳和 高岡法科大学, 法学部, 准教授 (10845001)
東 聖子 十文字学園女子大学, 女性学研究所, 客員研究員 (20060717)
ERBER PEDRO 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (40866208)
スエナガ エウニセ 愛知県立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (40908878)
福嶋 伸洋 共立女子大学, 文芸学部, 教授 (00711847)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ブラジル / アマゾン / 日本語俳句 / ポルトガル語ハイカイ / 熱帯季語 / 増田恒河 / ブラジル人詩人アウメイダ / オリエンタリズム |
研究実績の概要 |
ブラジルには世界的にも珍しいユニークな俳句文化が展開し、異彩を放つ。そこには【1】日本語俳句、【2】ポルトガル語ハイカイ、さらに【3】これらを融合させた季語を有するポルトガル語ハイカイが共存する。22年度は特に季語の概念や方法が問われる「熱帯季語」に関する分析を行い、さらにこれらの季語にかかわる日系移民の活動を世界的な視野で捉え返すことを試みた。またブラジルでポルトガル語ハイカイの普及に努めた詩人アウメイダの実作を紹介し、その考察を行った。なお2022年度はアマゾナス州都マナウス市を訪れてマナウス句会のメンバーやその関係者にインタビューを実施、アマゾナス連邦大学の教員・大学院生とも研究上の意見交換を行なった。 【1】の日本語俳句について。「熱帯季語」に関して第1に「戦時中の熱帯季題」ともかかわらせつつ、ブラジルの位置づけを試みた。第2にアマゾンの日本語俳句を例に、「冬」の季語が異文化・熱帯気候において、どのように折り合いがつけられているかを探り、そこに俳句の特質である「いま・ここ」が具現化されることを論じた。【2】の日本語俳句とポルトガル語ハイカイを結びつける活動については、増田恒河の「グレミオ・ハイカイ・イペー」の初期句集と俳句観を分析し、トランスカルチュラルな有季ハイカイの特徴を論じた。【3】のポルトガル語ハイカイについては、アウメイダのハイカイ作品の特徴を分析した。彼には自然詠のほか、視覚・聴覚・嗅覚・触覚などの感覚的な作品あるいは哲学的思索的な句もあるが、1936年の日本人の句会への参加後には「一瞬を切り抜いた」ような「具体的な」表現が増えることを指摘し、彼のハイカイ観が日本人との接触によって変化した可能性を説く。ブラジルの詩人と日本の俳人との邂逅がもたらしたブラジル側の詩人の意識を押さえた重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は、昨年度に比して論文等の活字化が6本から4本へと量的には少なくなった。しかしながらブラジルにおける調査(サンパウロとアマゾナス州マナウス)を実施し、前年度の論考をさらに深め精緻な分析を行なったため、自己評価としては(1)当初の計画以上の進捗としたい。前年度はコロナ禍のために渡航できなかったが、今年度は現地調査が可能となり、インタビューや資料調査の内容の一部を論文に活かし新たな視座による成果を出すことができた。 特に白石の「熱帯季題」に関する論考は、戦時下において、座の文学である俳句が戦争とどう向き合ったのか、台湾・ブラジル・南洋を対象に分析したもので、新たな視座を拓く成果である。スエナガのアウメイダに関する論考は彼我の言語及び詩歌に関する文学における素養に基づき、詩人の自筆・日付入りの資料を駆使した分析で、これもまた従来なかった貴重な研究であった。久冨木原による「ブラジル・アマゾンで「冬」を詠む」は、インタビューを活かした分析によって、現代のアマゾンの俳人たちの生き生きとした季語観・生活感を伝えた。なお白石の「ブラジルに根をはる俳句・ハイカイ」は移動をテーマにした『「日系」をめぐることばと文化』という、きわめて現代的な課題に向き合う書の一編で、平易な文章によって広く社会に問うて研究を普遍的なものにする著作としての意義を有する。 ところで、2022年度は活字化された論文のほかに、査読付の学会発表2件、国際会議発表1件、海外の大学での発表1件と精力的な活動を行なった。またブラジル渡航が実現したことによって、アマゾン地域ではインタビューなどを中心に現地調査をし、サンパウロでは主に資料調査を行なった。これらの調査によって得たものは、次年度の研究に有効に活かされるはずである。
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今後の研究の推進方策 |
例年通り、年3回の研究会での研究発表と質疑応答及びメンバーの情報共有を続けつつ、来年度もブラジル渡航を実現して調査研究を進めると共に、23年度開催予定のブラジル・日本研究国際学会における研究発表を視野に入れながら準備を進めていく。 予定としては、【1】ブラジルの8種類の歳時記のうち、唯一、アマゾンという熱帯において編集された『アマゾン季寄せ』の調査及びそれが編集されたアマゾン川河口の都市・ベレンを訪問して関係者に話を聴く。さらにベレンから200㎞内陸へ入った日本人入植地・トメアスーを訪ねて、『アマゾン季寄せ』がどのように活用されているのかを含め、日本語俳句活動の現在を調査する。【2】日本語俳句とポルトガル語ハイカイを結びつけた「グレミオ・ハイカイ・イペー」の活動は、増田恒河から姪のテルコ・オダに引き継がれたが、さらに現在は、日系人ではないブラジル人に受け継がれているようだ。23年度渡航の際には、最新の「グレミオ・ハイカイ・イペー」の活動の実態を探る。 【3】日本語俳句と接触したブラジルの詩人アウメイダのハイカイ論をさらに深めた分析を行なう。 以上、23年度の研究方針の方策としては、ブラジル渡航して調査し、彼の地での国際学会で発表し、それらを総合した論文をまとめる。
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