研究課題/領域番号 |
21H00738
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
酒井 健 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (60757061)
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研究分担者 |
遠藤 貴宏 神戸大学, 経済経営研究所, リサーチフェロー (20649321)
坪山 雄樹 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (50508645)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 歴史的組織研究 / 経営組織論 / 経営史 / 修辞史 / 過去の使用 / 正統性 / 不平等 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
2023年度、2本の英語論文が国際査読誌に掲載決定した。1つ目は准看護師制度に関して搾取的との批判が巻き起こった歴史的局面で、日本医師会が広めた言説を分析した国際共著論文である。この論文は、不都合な側面が暴かれ正当性が揺らいだ制度を存続させるための権力者の言説戦略の構造を歴史的文脈と結び付けて解明したもので、Journal of Evolutionary Studies in Businessにアクセプトされた。2つ目は高度経済成長期における家電の技術革新に対する主婦の貢献を実証した共著論文で、経営史の国際トップ誌の1つであるBusiness History Reviewにアクセプトされた。この論文は、「日本の家電の技術革新を牽引したのは男性技術者で、女性は家庭内で男性を支えていた」との一般通年に反し、主婦が技術革新に貢献していた実態を解明したもので、ジェンダー研究と経営史の架橋に貢献している。 口頭発表は3回行った。1つは国際学会であり(The 26th Annual Congress of the European Business History Association, Oslo, 2023年8月26日)、上記Business History Reviewの論文につながるアイデアを発表した。2つ目は日本体育・スポーツ経営学会第3回研究報告会であり(2023年12月16日)、本課題とスポーツ研究との接点に関する招待講演を行った。3つめは経営史学会東北部会であり(2024年3月7日)、准看護師に続く新たな医療系の研究課題として、日本社会における人間ドック制度の普及に関する予備調査結果を発表した。 アウトリーチ活動として、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューのオンライン対談企画を活用し、経営における歴史活用の概要とその問題点を解説した(2024年3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、歴史的組織研究という傘の下で、いかなる有意義な研究が可能かを探求し、国際研究拠点の形成を目指すものである。その点で、複数の具体的成果が出せたのはポジティブに評価できる。まず当初予定していた小課題の1つである准看護師制度の歴史研究は、上記の通り査読付き国際共著論文に結実した。また当初計画にはなかったが、本課題に取り組む中で創発的に生まれてきた主婦の技術革新に関する小課題も、共著論文になり、査読付きの国際トップジャーナルに受理された。学会発表だけではなくアウトリーチも積極的に行い、一定の反響がある。そのため、社会にそれなりのインパクトを与えられているのではないかと、前向きな感触を得ている。さらに当初計画に記載した課題のうち、代表者が単独で行うことを予定していた国際ビジネスにおける修辞史の研究については、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)23KK0229の課題へと発展した。このこともポジティブに評価している。 その一方で、当初計画していた小課題のうち、東北の被災地における企業家活動の歴史的研究については、2023年4月から研究代表者(酒井)の本務校が東北大学から一橋大学に移ったこと等により、2023年度は停滞した。それまでの調査結果をうまく活かすことができておらず、この点はややネガティブに評価している。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に掲げた小課題のうち、医療系の小課題である准看護師制度の研究が論文化され一段落したが、そこでの知見を活かし、新たに関連する小課題として、人間ドックの制度化に関する歴史研究を開始している。2024年度前半に中間成果を国際学会で発表し、同時並行で論文化・投稿を進める。もうひとつの当初掲げた小課題である国際ビジネスにおける修辞史の研究は、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)23KK0229の課題に発展したため、研究代表者とCopenhagen Business Schoolの教授陣とで、共同研究を進める(2024年後半)。東北被災地での企業家活動に関する歴史的研究については、2024年5月以降に再調査を開始する計画を練っている。関連研究を進めている大学院生との協力を検討している。調整が上手くいけば、2024年度前半に南三陸を再訪したいと考えている。この他、本研究課題を発展させる新たな小課題として、経営組織論における社会的評価の理論と経営史研究を架橋する研究を、2024年3月からemlyon business schoolの研究者と開始している。
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