研究課題/領域番号 |
21H02382
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
小林 久人 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70632727)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / ゲノム刷り込み / 胎盤 / 種間比較 / エピゲノム / 胚発生 / ラット |
研究実績の概要 |
ネズミ目間の刷り込み(インプリント)遺伝子の全容を明らかにするため、ラット(BN×WKY/NCrlおよびBN×F344/N交雑)およびマウス(C57BL/6N×JF1交雑)の二系統交雑F1ハイブリット原腸胚より胚盤葉上層(エピブラスト)と胎盤外円錐(胚体外組織の一部)をそれぞれ単離し、父・母由来を区別化した対立遺伝子(アレル)特異的なトランスクリプトーム・DNAメチローム解析を実行した。作製したラット・マウスのインプリント遺伝子全容(インプリントーム)マップの比較により、ラット・マウス間でよく保存されたインプリント遺伝子を複数同定するとともに、ラット特異的にインプリントを受ける8遺伝子を同定した。これらの遺伝子はすべて胚体外組織特異的に父由来アレル特異的な発現を示すことから、進化の過程における刷り込み機構の胎盤での機能的多様性との関わりを彷彿させるものであった。また卵子のエピゲノム解析および胎盤外円錐のDNAメチローム解析結果より、これらの新規インプリント遺伝子は卵子のヒストン修飾H3K27me3の制御下(non-canonical imprinting)にあることが明らかとなった。このように、世界初のラットインプリントーム解析により、ネズミ目間のインプリンティングの保存性と多様性を明らかにし、特に多様性についてはゲノムおよび卵子エピゲノムの種間差に起因することが示された。これらの成果はゲノムワイドなインプリント遺伝子の解析を現時点で明らかにされているマウス・ラット・ハムスターなどをまとめ、論文として発表した(Richard Albert J et al., Genome BIology 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
採択より2年間の間に、齧歯類(マウス、ラット、ハムスターなど)におけるインプリント遺伝子についてまとめた総説論文(Kobayashi H, Front. Cell. Dev. Biol. 2021)、共同研究でトランスクリプトーム解析を担当した、ラットの試験管内生殖細胞再構築系の確立についての論文(Oikawa M et al., Science 2022)、ラットのインプリントームマップ解析結果の論文(Richard Albert J et al., Genome BIology 2023)が掲載されるなど、ラットをベースとした種横断的な解析が高く評価されている。想定より速いペースで研究業績を挙げており、予想以上の研究成果が上がることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ラットに引き続き、ハイブリッドウサギのアレル特異的なトランスクリプトーム・DNAメチローム解析を進めている。さらにウサギ卵子のエピゲノム解析を合わせて、ウサギのインプリントームマップを作成し、エピゲノムの相違点とインプリント遺伝子との関わりについて調査する。また、霊長動物(具体的にはアカゲザル・チンパンジー)の胎盤に加え、ウシ・ブタ・オポッサムなどの多様な哺乳動物の胚体外組織を入手出来ており、それらのトランスクリプトームあるいはインプリントーム解析により、幅広い視野で種特異的な刷り込み遺伝子の成立機序について調査する予定である。
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