研究課題/領域番号 |
21H03651
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
山本 智子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (80305169)
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研究分担者 |
久米 元 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 准教授 (00554263)
藤井 琢磨 公益財団法人鹿児島市水族館公社, 展示課, 技術職員 (30772462)
平 瑞樹 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 助教 (40284913)
中村 啓彦 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (50284914)
寺田 竜太 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (70336329)
本村 浩之 鹿児島大学, 総合科学域共同学系, 教授 (90433086)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 生物地理区 / 黒潮 / トカラ列島 / 温暖化 |
研究実績の概要 |
本研究では、島嶼域の海岸生物が分布を維持する仕組みを、各種の分散能力と島嶼間でのハビタットの空間分布に着目して明らかにし、地球温暖化によって起こりえる変化を予測する。以下の4項目に沿って研究を進めることにしており、2022年度は以下のA)B)を進めるとともに、C)の代表種選定を行う予定であった。 A) 海岸ハビタットの空間配置:GIS技術を用いた海岸生物のハビタット(岩礁・転石・砂質など)の空間配置の整理 B) 海岸生物の島嶼別分布:島嶼別ハビタット別に既存情報のデータベース化と現地での分布調査 C) 代表種の分布と分散能力:分類群別代表種について分布調査と分散能力との関連付け D) 温暖化による影響:温暖化に伴う分散パターンと生息可能範囲の変化を予測 2022年度も、新型コロナウィルス感染症のため行政から医療施設のない離島への入島へ制限が継続され、B)に関連する現地調査が終了できなかった。この分を2023年度に繰り越し、7島のうち6島の有人島と1島の無人島で海岸地形と海岸生物相の調査を終了した。対象海岸の多くはサンゴ基質や転石、砂質海岸であった。生物相については、海岸の基質による影響が大きいこと、トカラ列島の中でも北側の島嶼と南の島嶼では海岸動物相に違いがあり、南側の島嶼で見られる生物は奄美大島との共通種が多いこと、等が明らかになった。また、琉球列島から種子島まで分布し、奄美群島のいくつかの海岸で優占種であるミナミコメツキガニをC)の代表種として選定し、遺伝子解析を開始することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したA)B)C)D)の項目のうち、A) 海岸ハビタットの空間配置の情報整理は、人工衛星情報等を活用して基質の異なるハビタットの空間分布パターンを整理しており、概ね終了している。また、現地調査を行い、ドローンを活用してより詳細かつ立体的に海岸地形を把握した。特に情報の少ない無人島については、村役場の協力を得て上陸し、海岸地形と陸上部の現状を調査した。B) 海岸生物の島嶼別分布については、藻類、サンゴ類、貝類、甲殻類について既存の文献から各種の分布情報をまとめる作業を終了した。文献情報の不足分を現地調査で補う予定であったが、2022年度に終了することはできなかった。2023年度に繰り越した結果、大部分の有人島と無人島ひとつに加えて、比較対象とする周辺島嶼における海岸動物相が明らかになった。また、琉球列島から種子島まで分布し、奄美群島のいくつかの海岸で優占種であるミナミコメツキガニをC)の代表種として選定し、サンプル採集と遺伝子採取を行い、遺伝子解析を開始することができた。以上のことから、2022年度に計画していた項目はほぼ終了しており、進捗状況は概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに現地調査を行えていない島嶼に加えて、情報の少ない無人島については複数回の調査を行い、トカラ列島の島嶼における海岸生物について、島嶼別、分類群別の分布情報を整理する予定である。海岸動物はその発生様式によって幼生の分散能力が異なることが想定されるため、それによって島嶼間、海岸間での分布様式に違いが出るかどうかを検証する。また、分散能力と島嶼間の分布について解析するモデル種に選定したミナミコメツキガニについて、遺伝子解析を進め、集団遺伝学的な解析によって島嶼における地域個体群間のネットワークを明らかにする予定である。このようなネットワークを形成する上で海岸動物の幼生分散を決定する海流の影響は大きいと想定されるため、粒子追跡モデルによって分散パターンの再現を試みる。モデル形成に寄与するため、ミナミコメツキガニの繁殖生態について詳細な調査(本種は2010年に新種記載されており、基礎的な生態情報に乏しい)を行なう。その上で、現在進行する気候変動がこの流れに与えるであろう影響を予測することによって、当該地域における海岸生物の分布が気候変動に伴ってどのように変化するかについても予測を試みる。
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