研究課題
山田は、発話の理解の不確かさを論理的に特徴づけるために、動的認識論理で標準的な積演算更新(product update)の論理に義務論的側面の更新操作を加えて、指令と依頼に関する義務論的積演算更新の論理を定義した。これにより、発話の向けられた相手の理解は確保できたが他の行為者の理解が確保できなかった状況を表現できることと、発話の向けられた相手の理解が確保できなかった場合には、積演算更新ではなく、発語行為の効果の論理が必要になることを示した。この成果は現在査読中である。また、山田は発語行為と発語内行為の区別、発語行為及び発語内行為の内容の特徴づけをめぐる諸説を検討し、新たな発語内行為の内容の理論の枠組みを検討した。佐野は、古典論理と直観主義論理の組み合わせ、直観主義論理上の分散知識認識論理、公開告知論理について推件計算による証明論的研究を行なった。また意味論的観点から双直観主義時制論理がクレイグ補間定理をもつ十分条件を特定した。このうち後者は小野寛晰名誉教授(JAIST)との共同研究である。金子は、ゲーム理論での中心的パラドックスと考えられている百足ゲームパラドックスの概念的な分析を行なった。それにより具体的な解を導出して国際学会で発表し、パラドックスの解決に貢献した。東条は、エージェントのアウェアネスの様相論理による分析において、アウェアネスの観点から区別できない可能世界を形式化する研究を行うとともに、多値論理を用いた知識・信念の論理について研究し、様相オペレータを用いずに、多値で信念様相をシミュレートできる可能性を論じる論文(Y. Song and S. Tojo, An epistemic logic without K/ B)を執筆した(この論文は、国際学会ISMVL 2024(査読あり)に受理されているが、学会発表は2024年5月の予定である)。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者も各分担者もそれぞれ分担課題の研究を順調に進めており、昨年度に引き続き扱える現象の範囲の拡大と扱いの洗練が進んでいる。例えば山田は、人物AがBにあることを実行するよう指令し、Bがそうすることを約束した場合には、Bが実際にそれを実行したという主張が真となる状況が、Aの指令が従われ、Bの約束が守られた状況であるという関係が成り立つことから、これらの行為の充足のされ方(従われる、守られる、真となる)の違いにもかかわらず、それらの発話の内容の間に論理的関係が成り立つことに着目して、真理条件的意味論に代わる体系的意味論の可能性を示唆する成果を得ている。これは指令、約束、命令という異なる種類の行為の慣習的効果を動的義務認識論理により捉えるという2022年度までの成果を基盤にしている。同様に、佐野は2023年度には、古典論理と直観主義論理の組み合わせ、直観主義論理上の分散知識認識論理、公開告知論理へと、推件計算による証明論的研究を拡大している。また金子はゲーム理論での中心的パラドックスと考えられている百足ゲームパラドックスの概念的な分析により、その解決に貢献する成果を上げており、東条は、エージェントのアウェアネスを様相論理により分析する際に、アウェアネスの観点から区別できない可能世界を形式化する研究を行うとともに、多値論理を用いた知識・信念の論理について研究し、様相オペレータを用いずに、多値で信念様相をシミュレートするという興味深い着想を得ている。
現在までの進捗状況が示しているように、成果は蓄積されつつあり、それらをさらに発展させることにより研究を深めていくことができる。山田は現在これまでの成果を英語で一冊の著書にまとめる作業を開始しており、その中で、これまでの成果を背景に、明確な意味と指示を伴いつつ何かを言う行為である発語行為、その際に遂行される指令、依頼、約束、主張などの、状況の義務論的構造を変化させる発語内行為、それにより関係者たちの考えや感情、選好、意図などに影響を及ぼす発語媒介行為の相互の区別と連関を包括的に特徴づけることを計画している。また、充足様式の違いに阻まれて伝統的な真理条件的意味論がそのままでは発話の内容の体系的意味論を与えることができないという難点を、動的意味論への一般化により克服できる見込みも得ている。佐野は、様相述語論理およびその断片における変項と対象の同一性の扱いのヒルベルト式体系、推件計算の観点からの研究に着手する予定であり、これにより本研究の基盤となる動的様相論理の表現力を一段と高める可能性を探ることができる。金子は、社会的文脈における人間達の相互作用に関して研究する予定であり、特に、社会学でのシンボリック相互作用論と認識論理学との関係を概念的に考え直し、一方から他方へ両方向の含意を考察することを計画している。また東条は、多重信念をエージェントの列で表し、列の接合・融合によってエージェントの分散信念・共通信念を表現する可能性をさぐるとともに、可能世界の無区別関係によって、もとの多数の可能世界から少数の可能世界の剰余セットを作る方法を考察する予定である。その際、可能世界間のアクセス関係が有向グラフであることから、グラフ理論で用いられているノードのカラーリングやクリーク(clique)分割に有効な方法がないかも考慮する予定である。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Studia Logica
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The Australasian Journal of Logic
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