研究課題/領域番号 |
22H00725
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小林 正史 金沢大学, 古代文明・文化資源学研究所, 客員教授 (50225538)
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研究分担者 |
久保田 慎二 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター, 准教授 (00609901)
妹尾 裕介 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 主任学芸員 (20744270)
白石 哲也 山形大学, 学士課程基盤教育院, 准教授 (60825321)
小田 裕樹 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (70416410)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 主食調理法 / 湯取り法炊飯 / 民族考古学 / ススコゲ / 土器使用痕研究 / ウルチ米蒸し / 弥生時代 / 古代 |
研究実績の概要 |
2022年度は、国内ススコゲ観察ワークショップ(静岡県浜松市の弥生後期遺跡と宮崎県の古墳時代~古代の遺跡)、北タイ山地民の食文化についての民族考古学的調査、などの調査事業を行った。一方、コロナ禍の制約のため中国でのススコゲ観察ワークショップは実施できなかった。 民族考古学調査については、コロナ禍により休止していた北タイ山地民(アカ族とモン族)のウルチ米蒸しの調査を2年半ぶりに実施することができた(8・9月の約1か月間)。その結果、先行研究ではほとんど報告がなかったうるち米蒸し調理について、①茹で蒸し法と二度蒸し法の2種類がある、②中国南部から北タイに過去200年間に移住してきた山地民の主体的主食調理法であり、モン族(中国南部からベトナム・ラオス北部を経由して北タイに移住)は茹で蒸し法を用いるのに対し、アカ族・リス族(チベットから雲南省西双版納、ミャンマーシャン州を経由して北タイに移住)では二度蒸し法を用いるという違いがある、③主食のウルチ米を(炊くのではなく)蒸す理由として「1回の米調理量の多さ」と「粘り気度が大きく異なるコメ品種の混合調理」の2要因があげられる、など多くの新知見を得ることができた。 国内ススコゲ観察ワークショップについては、東日本の弥生・古墳時代に普及した台付き深鍋のススコゲ観察を行い、台付き鍋を用いて主食調理を行った理由について検討した(分析は現在進行中)。また、宮崎県でのススコゲ観察会を8月と10・11月に実施し、古代の九州南崎では作り付けカマドの普及が遅れる理由について検討した。これらのススコゲ観察と民族誌調査において3Dレーザースキャナを積極的に導入した。 これらのススコゲ観察と民族考古学的調査により、主食調理法における「弥生時代~古墳前・中期の湯取り法炊飯から古墳中期~古代のウルチ米蒸しへの転換過程」について具体的に検討できる基礎がつくられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度はコロナ禍のために、当初予定していた中国浙江省でのススコゲ観察ワークショップを実施できなかったが、その代わりとして、中国南部から過去200年間に北タイに移住した北タイ山地民(モン族、アカ族など)の民族考古学的調査を実施することができた。また、国内でのススコゲ観察ワークショップも当初の予定よりも少なかったが、静岡県の弥生遺跡と宮崎県の古代遺跡において実施することができた。 この科研の目的は「最も粘り気の強いウルチ米の主食と素材自体の味を最大限に引き出すシンプルな調理法と味付けのオカズから構成される」という日本の伝統的食文化(和食)の特徴が成立する過程について、「コメ品種の交代」に焦点を当てて解明することである。2022年度の調査において以下の点が指摘される。第一に、弥生深鍋のススコゲ観察において、弥生人の主食調理法は東南アジア民族誌と同様の「側面加熱蒸らしを伴う湯取り法炊飯」であることが再確認された。これまでの炊飯民族誌の比較分析により、この炊飯方法は東南アジア民族誌と同様の粘り気度がやや弱い(アミロース比率20-25程度が多い)コメ品種に特化したものであることから、弥生人は、中世以降の粘り気の強い米品種とは全く異なるコメを主食としていたことが再確認された。 第二に、前回科研の2019年度の民族考古学的調査において初めて体系的に報告された「中国南部~北タイ・ラオスの山地民のウルチ米を蒸す調理」について、コロナ禍での2年間のブランクを経て調査を再開できた。その結果、ウルチ米を蒸す調理について、具体的方法(二度蒸し法と茹で蒸し法の2つがある)と選択理由(ウルチ米を炊くのではなく、あえて蒸す条件)についての見通しが得られた。この成果により、今後、日本の5~11世紀のウルチ米蒸し調理(中世における和食の成立の前段階)の具体的調理法と選択理由を解明する基礎を構築できた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を踏まえて、今後は以下の点に重点をおいて分析を実施する。 日本の5~11世紀に普及した「主食のウルチ米を蒸す調理」について、ウルチ米を蒸した理由と具体的加熱方法を解明するために、民族考古学的調査と考古資料のススコゲ観察を組み合わせた調査を継続する。民族考古学的調査では、二度蒸し法と茹で蒸し法の加熱過程の違いを定量的に明らかにし、また、「二度蒸し法か茹で蒸し法かの選択理由」についての民族誌モデルを構築する。 ススコゲ観察ワークショップにおいて、カマド構造とウルチ米蒸し法の結びつきを明らかにする。すなわち、①6-8世紀にみられる「2個掛けカマドが主体の東日本と1個掛けカマドを用いる西日本の間の地域差、および、②東日本の平安時代における2個掛けカマドから1個掛けカマドへの転換、という2点について、「二度蒸し法と茹で蒸し法の違い」という視点から検討する。 具体的には、茹で蒸し法では、茹で用の釜(多めに水を入れ、米投入後は掻き回し続けるため、大型で広口)と蒸し用の釜(日本の古代では長胴湯釜をカマドに粘土で固定)という2種類の湯釜と火処(はめ殺しのカマドと住居中央のイロリ)が必要なのに対し、二度蒸し法では途中で蒸し米を取り出して水を加えて撹拌するものの、湯釜と火処は1つで済む。よって、1個掛けカマドを用いた西日本と2個掛けカマドを用いた6-8世紀の東日本の間で、茹で工程用の湯釜と火処(中央イロリ)の有無を分析する。 次に、湯取り法炊飯の中での「ウルチ米品種の粘り気度の増加に伴う茹で時間短縮化」を明らかにするために弥生時代~古墳前期のススコゲワークショップを継続する。ススコゲ観察において、従来の手描き方法に加えて、3D画像を用いたデータ提示を普及させる。
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備考 |
変更日 2023年4月 (840000)北陸学院大学 (0)金沢大学
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