研究課題/領域番号 |
22H01050
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
松田 岳士 東京都立大学, 大学教育センター, 教授 (90406835)
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研究分担者 |
近藤 伸彦 東京都立大学, 大学教育センター, 准教授 (10534612)
岡田 有司 東京都立大学, 大学教育センター, 准教授 (10584071)
重田 勝介 北海道大学, 情報基盤センター, 准教授 (40451900)
渡辺 雄貴 東京理科大学, 教育支援機構, 教授 (50570090)
加藤 浩 放送大学, 教養学部, 教授 (80332146)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 自己主導学習 / 学習支援システム / 教学IRデータ / データ可視化 |
研究実績の概要 |
3年間の科研助成期間の初年度である2022年度は,学習支援システムの評価版を開発して実証評価した.本研究で開発しているのは,大学生がなりたい自分像を描き,現状も認識したうえで「何をいつまでに学ぶべきであるか」を学生自身が決定する自己主導学習のスキル・態度の習得を支援するシステムである. 2022年度には,5月から8月にかけて実際に学生が評価版システムを使用する実証評価を行い,データを収集,分析した.評価版は,システムの主要機能の一つである(授業外を含む)学生の学習活動すべてを記録してその状況を表示する機能を備えていた.また,学習実績だけでなく予定のデータも入力できた.さらに,評価版にはシステム使用開始時に自己主導学習のレディネスを測定し,使用者に対して表示する機能も実装した.自己主導学習の特徴を事前に学習者に示すことによって学習の指向性を知らせようとしたためである. 四大学から1-3年生が参加した実証評価では,第一にシステムのインターフェースやユーザビリティが確認され,画面の理解度やシステムの効果についてはおおむね高い評価が得られる一方で,ログイン方法やデータの入力方法に関する利便性改善を求める感想が多くみられた.今後,新規機能の開発と並んで,使用効果に影響を及ぼさない範囲で入力の自動化を図っていく予定である. 第二に、実証期間中の使用継続状況を分析した結果から,自己主導学習レディネスの構成因子のうち,自己責任感が強く,自己効力感も高い学生の中に,外部からの介入がなくても長期間継続して使用する者の割合が高かった.また,様々な状況で効果的な学習ができると考えている程度が高い学生ほどシステムを学習プランニングのツールとみなしておらず,学習記録のモニタリングシステムとして使用する傾向が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究グループでは,研究計画書において2022年度を「調査期」と位置づけ,開発の前提となるデータを収集する時期とみなしていたが,実際には,調査に加えて初期システムの評価まで進むことができた.その理由として新型コロナウイルスによる感染症の影響が当初予測より早めに減少し,学生が実証評価に参加しやすい環境が実現したことや,2021年度からの入念な準備によってスムーズな開発が進んだことなどがあげられる. いずれにしても2022年度の成果の一部は本来2023年度に期待していた成果であり,2022年度中にインターフェースやユーザビリティの評価を完了し,年度末までに学生の自己主導学習のレディネスとシステムを継続的に使用するかどうかの関係性に関する分析結果を論文にまとめて投稿することができた.さらに2023年度開始時点でシステム使用が学生の学びに与えた効果の分析や,追加開発する機能の要件などについての知見の整理も進んでいる. これらを勘案すると,本研究では「SDL遂行能力を高めるための情報を学生にフィードバックするシステムの開発」という研究目的の達成のため,当初計画していた各種機能開発以外にデータ可視化の方法や個々の学生のモチベーションにまで踏み込んだ学生の学びの状況のモデル化にもエフォートを割くことが可能である.また,完成したシステムを実際に用いて行う予定の最終評価の期間も十分に設定できると期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,前年度に実施した試用版システムの実証評価の結果を受けて,評価版のシステムを改善するとともに,SDLのスキル習得に必要な新規機能も設計し,実装する.なお,研究代表者(松田)は,2023年9月まで国際機関(OECD)において非認知スキルの測定や可視化について実践研究をしており,本研究のシステム開発に対してもその成果を反映する.本本研究で開発するシステムの主要な機能として計画されているのは,以下のとおりである. (A)学生自身の学びに関するパーソナルデータを可視化する.(B)学生の置かれた状況やモチベーションに応じた可処分時間の配分を提案する.(C)SDLの観点から,個々の学生が「よりよく学ぶ」には具体的に何を改善すればよいかを示す.(D)他の学生のデータを参照できる機能を通して,動機づけを支援する. 以上の機能からわかるように,開発されるシステムで示すことのできる情報の組み合わせは多く,可視化の方法も多様である.このような場合,システムログイン後ユーザである学生が最初に目にするダッシュボードの表示が重要であるので,まずダッシュボードにおける表示データの種類の整理や可視化の方法から設計する.また,2022年度の評価結果から,データ入力をどの程度自動化するのか,学習計画のデフォルトの表示形式をどうするのかが,本システムの効果やユーザにとっての継続的な使用のためのモチベーションに影響を及ぼすことが明らかになった.したがって,新機能の開発に先立って,これらの課題について検討して,試用版システムの改善を行う. これらのデータ分析,設計等の途中で得られた知見は研究成果として取りまとめ,学会の大会・研究会等で発表し,論文として投稿する.さらに調査結果や開発したシステムへのリンク等の情報は,随時本研究グループのウェブサイトから公表する予定である.
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