研究課題
細胞内相分離は、細胞内の混雑した環境で、特定の分子を集約した区画を作り上げることで、細胞内の様々なプロセスを潤滑に進める重要な機構である。本研究では、RNAが相分離により誘導する非膜性構造体がどのように働くのかを明らかにすることを目的にしている。そのため、RNAによって誘導される代表的な非膜性構造体について、その形成機構を明らかにすることを計画している。本研究で目指す重要な目的の1つが、パラスペックルの形成原理であるミセル化の分子実体の解明である。パラスペックルはこのミセル化の機構を介してコアシェル構造を持つ形態を作ることができる。この解明のために重要なのが、シェルを構成するタンパク質が何かという点である。本年度の解析から、このシェルを構成するタンパク質の同定に成功した。もう1つの本研究の重要な課題は、細胞内相分離の誘導に関わるタンパク質の同定および解析である。ここで使用するのが、独自に確立した人工非膜性構造体実験系である。まず、この系を用いて、核内ストレス体(nSB)の形成に関わるタンパク質の同定を試みた。nSBの主要な構成タンパク質について、相分離誘導活性を調べ、その結果、複数の相分離誘導活性を有するnSB構成タンパク質を同定した。加えて、変異体を用いた解析により、形成に関わるメカニズムも明らかになった。さらに、こうして同定したタンパク質のnSBの形成に対する影響を解析するため、ノックアウト細胞株を樹立した。また、nSBに加えて、SARS-CoV-2 Nucleocapsid(N)タンパク質が形成するviral RNPの形成機構についても解析を進めており、Nタンパク質の必要なドメインの同定およびそのドメインに結合するタンパク質を同定した。
2: おおむね順調に進展している
予定通り、パラスペックルのシェルを構成するタンパク質の同定に成功しており、ブロック共重合体のミセル化という新規の細胞内相分離機構の分子基盤の解明につながる重要な知見を得た。さらに、人工構造体実験系の解析を用いて、nSBおよびSARS-CoV-2 vRNPの形成に関わるタンパク質および形成機構に迫る結果を得ていることからこのように判断した。
今後の方針としては、現状の解析を順当に進めていくことで目標を達することができると考えている。パラスペックルのシェル構成タンパク質については、変異タンパク質を用いた解析を進め、同定したタンパク質がどのようにミセル化に寄与しているかを明らかにするための解析を進める。また、nSBの形成機構については、同定したタンパク質のnSB内部での局在の詳細な解析やノックアウト細胞を用いた解析を進め、nSBの形成に必要なタンパク質の同定を目指す。加えて、Nタンパク質のvRNP形成における役割については、Nタンパク質のvRNP形成に必須のドメインに結合するタンパク質のvRNP形成への関与について、解析を進める予定である。
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