研究課題/領域番号 |
22H02891
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
姜 秀辰 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 寄附研究部門准教授 (30644398)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 代謝 / 炎症 / サイトカインストーム |
研究実績の概要 |
サイトカインストームは重症新型コロナウイルス感染症、敗血症や重篤な熱傷、外傷などによりひき起こされる、極めて致死性の高い全身性の炎症であり、現在のところ確立された治療法はない。申請者は、血管内皮細胞においてIL-6受容体シグナルが炎症性サイトカイン産生のサーキットの形成だけでなく、PAI-1の産生に関わる凝固カスケードを活性化することを明らかにした。組織損傷や感染によって血管内皮細胞に炎症が生じると、凝固因子の発現が増加し、血栓形成を強力に誘導する。この様な血管内恒常性の破綻は全身性炎症反応の重症化に大きく関与する。しかし、何故血管内皮細胞の傷害で凝固と炎症のカスケードが誘導されるのかについては未だに不明である。本研究では、IL-6受容体シグナルにより誘導されるヒストン脱メチル化酵素であるJmjd1A因子に着目して「血管内皮細胞における代謝と炎症のクロストークの分子基盤の解明」を目指す。当研究の目的を達成するため、1年目には1)HIF1A-Jmjd1Aが血管内皮細胞における凝固・炎症反応制御機構の解明、2) HIF1Aによる血管内皮細胞のグルコーズ代謝制御機構の解明に関する研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究の目的を達成するため、令和4年度の研究計画を以下の通りに実施した。 1)HIF1A-Jmjd1Aが血管内皮細胞における凝固・炎症反応制御機構の解明:HIF1Aのターゲット遺伝子及び遺伝子発現制御機構を解明する実験を行った。さらに、IL-6, IL-8, MCP-1, PAI-1遺伝子について HIF1Aが転写因子として直接的に発現を制御するのかを明らかにするため、HIF1Aの活性を制御する阻害剤を用い、血管内皮細胞に処理し、炎症応答を検討した。さらに、HIF1A の転写活性をluciferaseアッセイで測定した結果、IL-6受容体の下流にはHIF1Aが関与し、炎症応答を制御することを明らかにした。 2) HIF1Aによる血管内皮細胞のグルコーズ代謝制御機構の解明:申請者はIL-6受容体の下流分子としてグルコーズ酸代謝の鍵分子であるHIF1α-Jmjd1A axisが存在することを見出した。この結果から、 Jmjd1Aが血管内皮細胞内のグルコーズ分解経路を介し乳酸産生を制御する可能性が示唆される。IL-6受容体シグナルによる血管内皮細胞の代謝調節における HIF1A の役割を解析するため、細胞外フラックスアナライザーを用いて解糖系、TCA回路の機能評価を行い、細胞レベルでの代謝活性を検討した。その結果、IL-6受容体であるgp130をsiRNAでノックダウンした血管内皮細胞の糖代謝関連酵素であるHexokinase2およびPFKFB3の発現が抑制した。さらに、gp130ノックダウン細胞の乳酸産生もコントロール群と比べ抑制された。このような結果は、IL-6受容体の下流にはHIF1Aが糖代謝を介して血管内皮細胞の炎症応答に関与することを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
1) IL-6受容体-HIF1Aシグナルによる肺血管内皮細胞のグリコカリックス安定性制御機構の解明:IL-6受容体シグナルにより内皮グリコカリックスの構造的安定性が制御される知見を得ている。さらに、HIF1αおよびその下流分子であるJmjd1Aによりグリコカリックスの形態が制御される可能性について検討するため、Cdh-BAC-Cre ERT2 トランスジェニックマウス及びgp130・floxノックインマウスを用い、血管内皮細胞特異的gp130欠損マウスを作製する(現在作成中)。IL-6刺激に対するSyndecan-1の発現及び脱落を免疫染色にて検討する。さらに血管内皮細胞特異的Jmjd1A欠損マウスを用い、LPS投与による肺血管内皮細胞上のグリコカリックスの形態変化を免疫染色や走査型顕微鏡で観察する。 2) IL-6受容体-HIF1Aシグナルによる血管内皮細胞代謝変化による免疫細胞との相互作用:上記に作製した血管内皮細胞特異的gp130欠損マウス及び野生型マウスにLPS投与により全身性炎症を誘導し、血中好中球及び単核球の活性を検討する。好中球や単核球の活性化に血管内皮細胞由来の乳酸が直接に関与するかを検討するため、血管内皮細胞特異的gp130欠損マウスから肺血管内皮細胞(CD45-CD31+細胞)を単離し、in vitroで骨髄由来の好中球及び単核球を共培養によりこれらの免疫細胞の活性をサイトカイン産生やMPO産生などにより評価する。
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