研究課題
進行肝細胞がんに対する最新の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療は、既存の分子標的薬や化学療法を上回る治療効果を発揮しているが、根治的な抗がん作用や生命予後の改善効果は限定的である。本計画では、進行肝がんに対するICI治療経過において、患者末梢血の循環腫瘍細胞(CTC)をシングルセル解析(scRNA-Seq)し、治療耐性・転移を呈した患者に特有な責任候補遺伝子群を抽出した。1)患者CTCの採取と細胞分子病態の解析: 肝癌に対するICI:Atezolizumab-Bevacizumab併用療法(Atezo-Bev)の治療前、3週後、効果判定時に末梢血を採取しRosetteSepTMでCTCを濃縮、BD FACS Aria IIを用いて細胞表面マーカーを解析、CD45陰性かつPanCK陽性細胞をCTCと定義した。CTCからRNAを抽出しがん進展に関連する373遺伝子の発現変化を次世代シーケンサー(NGS)で解析、GSEA(Gene Set Enrichment Analysis)でパスウェイ解析を行った。2)治療耐性・転移の責任候補遺伝子群の抽出: 治療有効PR群のCTC数は治療経過で減少した(治療前/効果判定時:141 vs. 58,p=0.01)。細胞サブセット解析で治療無効PD群は治療前Vimentin陽性CTC数が多かった(PR群/PD群:1.3 vs.5.9)。NGS解析ではPR群のCTCはアポトーシス経路関連遺伝子(FAS,TP53)の発現が、PD群ではTGF-β経路関連遺伝子(TGF-β1,SMAD2)の発現が有意に上昇していた(p<0.05)。これより、肝がんICI治療中の循環腫瘍細胞における遺伝子発現が治療効果と相関しており、がん進展・治療耐性と関連するドライバー遺伝子となる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、令和4年度は1)-2)が計画されていた。ほぼ予定通りに進捗しており、3年計画の2年目:令和5年度に向けて、3)ゲノム編集技術を用いた遺伝子ノックアウト、がすでに開始されている。おおむね順調に進展しているものと考えられ、3)として継続中の計画は以下のごとくである。3)ゲノム編集技術を用いた遺伝子ノックアウト ⇒2)で選択された候補遺伝子群について、以下の手順でCRISPR-Cas9システムによりノックアウトする。a. ライブラリーの作成:上位100遺伝子に対する一本鎖ガイドRNA(sgRNA)を、プラスミドベクターpCRISPR-LvSG03に組込む。 b. レンチウイルス粒子の精製、濃縮:[a.のsgRNA配列を組込んだpCRISPR-LvSG03/パッケージングpCMV-dR8-2DVP/エンベロープpCMV-VSV-G]をHEK293FT細胞に導入し、48時間後の培養上清を濃縮する。 c. sgRNAによる遺伝子ノックアウト:b.のウイルス粒子をCas9エンドヌクレアーゼを恒常的に発現する肝がん細胞株(PLC/PRF/5, C3A, SK-HEP-1他)に感染導入して、puromycinにより非導入細胞を除去し、sgRNA導入細胞集団を樹立する。※ 樹立された細胞集団における100遺伝子のノックアウトは、次の4)にて検証する。
当初の計画通り、1)-2)に加えて3)が進展しており、今後は以下の4)の研究を予定している。4)転移能の in vivo スクリーニングによるドライバー遺伝子の選択 ⇒3)のsgRNAによって候補遺伝子がノックアウトされた100種類の肝がん細胞集団について、in vivo マウスモデルでの転移能を評価しドライバー候補遺伝子を選択する。a. がん細胞株のsgRNA導入率:3)がん細胞集団のsgRNA頻度をNGS解析する。 b. in vivo 転移モデル:3)がん細胞集団をNSGマウスにおいて、門脈注入(肝転移);尾静脈注入(肺転移)して、2-4週間後の転移巣(個数、サイズ)を定量する。NSGマウスは、T/B/NK細胞の欠損により、移植細胞の生着率が高い。 c. 転移巣のsgRNA導入率:b.転移組織からゲノムDNAを抽出して、sgRNA頻度をNGS解析する(MAGeCKワークフロー)。※ a.- c.導入率が低下したsgRNAを検出することによって(ネガティブ選択)、そのsgRNAが標的とする宿主遺伝子が、がん転移のドライバー候補遺伝子として抽出される。
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