研究課題/領域番号 |
24000015
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
諏訪 元 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (50206596)
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研究分担者 |
中務 眞人 京都大学, 理学系研究科, 教授 (00227828)
加藤 茂弘 兵庫県立人と自然の博物館, 自然環境評価研究部, 主任研究員 (50301809)
仲谷 英夫 鹿児島大学, 理工学研究科, 教授 (20180424)
河野 礼子 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究主幹 (30356266)
遠藤 秀紀 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30249908)
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研究期間 (年度) |
2012-05-29 – 2017-03-31
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キーワード | 自然人類学 / 化石人類 / 人類進化 / 類人猿進化 / 先史人類学 / マクロ形態進化 |
研究実績の概要 |
1) エチオピアのチョローラ地区の調査関連では、前年度調査で採取した火山岩資料の分析と動物化石の比較研究を進め、さらには焦点を絞った野外調査を継続し、以下の成果を得た。H25年度発掘区域の隣接部においてin situ砂礫化石包含層が部分的に露出していることを確認し、この区域を約40平米の面積にわたり発掘し、貴重な動物化石資料を収集した。これらには、類人猿とオナガザル類の良好な歯の化石が含まれている。発掘調査地区以外の複数地区においてもサーベー調査を実施し動物化石資料を収集した。チョローラ層の年代層序に関しては、資料分析の進展により新たな疑問点が生じ、これらを解消するための露頭調査と資料採取を行った。さらには、今までは北東部10キロ径ほどの範囲を集中的に調査していたが、これらから20キロほど南西のほぼ未調査の露頭群の一部についてパイロット調査を実施した。2) コンソ地区関連の調査研究では、前年度調査で収集したアシュール型石器資料をも含めた全資料群について、標本評価、データ解析と情報化を統合的に進め、中でもコンソ調査報告書第2巻の作成を大方完了した。3) ラミダス化石関連の形態進化研究では、今後の研究の方向性を設定する新たな総論を発表すると共に、個別研究を推進した。後者としては特に第1中足骨の機能形態論の研究を推進し、さらには距骨と手の関節構造と可動性に関する比較資料を充実した。また、咬耗ファセットの3次元分布から咀嚼運動を評価する研究を前年度から継続した。4) 上記諸研究と関連し、現生の霊長類と化石類人猿標本の3次元情報化とモデル作成を進めた。特に、年度後半には、エチオピア文化省の古生物古人類研究施設にマイクロCT装置を運搬・臨時設置し、チョローラピテクス化石とラミダス猿人化石について3次元情報化を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チョローラ地区は、人類とアフリカ類人猿が分岐した前後と思われる700万から1000万年前ごろの年代を持つ、アフリカでも稀少な調査地の一つである。特に900万から700万年前の間の時代は、人類進化史上の最後の大きな化石空白期となっているため、本研究によるチョローラ調査の意義は大きい。本研究では、代表者らが2007年に発表したチョローラの類人猿化石とその年代について、新規の地質・年代情報を得、また類人猿化石を着実に増加してきた。今までの調査により、in situ層準から類人猿化石を多数発掘することができ、これらは、他の哺乳動物化石と共に後期中新世の極めて重要な新化石資料群と位置づけされるものである。さらには、地質資料分析と露頭調査の相補的循環により、従来の地質年代解釈を否定し、新たな年代観を確立するに至っている。これらの研究進展により、大型類人猿チョローラピテクおよび同時代に生息していた他の哺乳動物諸系統の進化様式について、新たな理解が着実に進みつつある。コンソ地区調査関連では、世界最古級のハンドアックス資料を含む重要石器資料と動物化石資料群の双方について、系統だった比較研究が順調に進んでおり、論文と大部の報告書の発表が順調に進んでいる。ラミダス研究関係では、争点について検証しながら幾つかの論文を発表し、それらと平行して、重要特徴に焦点を置いた独創性の高い形態進化論のサブプロジェクトを複数試行錯誤してきた。中でも、足第一指の機能進化とアウストラロピテクスとラミダスの相違に関する研究では、南アフリカとケニアの化石人類・類人猿の比較3次元データを加え、着実に進んでいる。化石種の咀嚼機能解釈への応用を目的とした、臼歯の微小咬耗面から咬合時顎運動を推定する研究については、基礎的分析を終え内外の学会で発表した。また、CT装置など複数の入力装置を組み合わせた機動的な3次元情報化体制を達成し、各研究を効率的に推進している。
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今後の研究の推進方策 |
先ずはチョローラ地区の一連の調査成果について可能な限り早い時期に論文発表する予定である。地質層序、年代学的分析、それと動物化石の比較評価について、H26年度中に格段に進展することができ、既に新たな層序年代学的枠組について大方の結論に達している。この成果の論文化は既に十分に進んでいるものの、幾点かの疑問が生じており、それらの解決のためにH26年2月から3月の現地野外調査で地質分析資料を新たに加えた。H27年度早々にはこれらの分析を終え、公表可能な論文化を早急に進める予定である。H26年度の現地野外調査ではさらに、チョローラピテクス、オナガザル類、その他の哺乳動物化石を新たに発見することができた。形態解析の主要対象になる比較的保存の良いチョローラピテクスの歯の化石は数10に達しており、これらの比較形態解析を進め、H27年度中の可能な限り早い時期に論文発表する予定である。また、H27年度後期には野外調査(発掘とサーベー調査)を実施する予定である。 コンソ地区関連の調査研究では、前年度から継続してアシュール型石器群集と動物化石各分類群について比較研究を進める。アシュール型石器群集については、H27年度の早期に節目的な成果発表報告集を出版し、その後はエチオピア共同研究者と調整しながら摩耗痕跡などの先端的な分析手法を用いた機能実証的研究を開始する予定である。動物化石研究については、各分類群の研究をさらに深めると共に古環境情報の統合化を推進する。 ラミダス関連の研究では、前年度に続きラミダスの全体像および各側面に関わる研究を推進する。現在複数のサブプロジェクトを推進中であり、それぞれについてH27とH28年度中に十分な進展を予定している。既に一定の成果を得ている足の第1指関連の研究については、H27とH28年度中の論文発表を目指している。咬耗ファセットの3次元配置の研究では、基礎成果について早期に論文発表すると共に類人猿と化石資料への応用に移行する予定である。3次元スキャンデータを用いた他のプロジェクトについては、犬歯を扱った研究と手足の骨を対象とした研究を中心に進める予定である。これらについては既に比較3次元データを着実に集積しており、ラミダスの特徴的側面の機能論と形態進化論をH27とH28年度中に深化する予定である。 本研究により構築した機動的な3次元情報化体制を継続的に維持し、上記の形態進化、機能進化研究に活用してゆく。H26度後期には、エチオピア文化省の古人類古生物研究施設にマイクロCT装置を臨時設置し、既にチョローラピテクス化石の多くとラミダス化石の一部を3次元情報した。マイクロCT装置の臨時設置をH27年の秋まで継続し、その間に化石資料の情報化をさらに進める予定である。
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